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第162話 何処へ行ったのか

「タイム様、エイル様の元に急ぐのでございます」

〝あ…………それが……その、エイルさんが何処に行ったのかが分からなくて……〟

「本当でございますか?!」

〝申し訳ありません〟

「さ、左様でございますか……」


 私を壁に押さえつけていた腕が、力なくダランと垂れ下がり、うつむいた。

 一度見失うと、私やお義姉ちゃんだと見つけるのが難しい。ううん、不可能と言っても過言じゃない。ここに留まっているのか、それとももう既に地上に出て別の場所へ……そうなったらもう二度と会えないかも知れない。

 でもエイルさんだってモナカのバッテリーのことは知っているはず。どうするつもり?


〝地上で魔力反応を感知しました〟


 ! エイルさん?


「スズ様、本当でございますか」

〝エイリュ小母さんと魔力パターンが一致しません〟


 えっ、違うの?


〝もしかしたら那夜(なよ)さんのものではないでしょうか〟

「ナヨ様……でございますか。確かエイル様のミドルネームであったと記憶しているのでございます」

〝いえ、ここで言う〝那夜(なよ)〟はエイルさんの前世の名前です〟

「前世でございますか」

「確か五十三(よみ)那夜(なよ)……だったっけ?」

〝単純に偽名の可能性もありますけど、そうですね〟


 偽名……確かにその可能性の方が高いかも。


〝鈴ちゃん、反応は1つですか?〟

〝いえ、4つあります。どれもこの世界の魔力とは違います〟


 そんなことまで分かるんだ。


〝つまり、マスターとエイルさんともう3人誰か居るってことですか?〟


 モナカは魔力がない。だから4つ反応があるならその場に5人居ることになる。

 1人は多分前世のお父さんだ。ならもう2人は?


〝2つは人の反応とは違います〟

〝人ではないのですか?〟

「まさか魔物?」


 戦っているの?


〝違います。4つともこの世界の魔力ではありませんかりゃ〟


 そっか。魔物はこの世界の生き物? だものね。


〝では、誰の世界と同じですか〟

〝4つとも11260いちまんいっせんにひゃくりょくじゅう号と同じです〟

「スズ様とでございますか」

「エイルさんの前世って、鈴と同じ世界だったはずよ」

「では、一緒に()られる御仁はどちら様でございましょう」

「きっと前世のお父さんよ。エイルさんはお父さんと一緒に行ったんだもの。うん、間違いないわ。残りの2つは分からないけど……」

〝なんにしても行ってみれば分かることです〟


 そうよ。他に手がかりなんか無いんだから、私たちには行く以外の選択肢が無い。


「スズ様、今すぐその魔力反応の場所へ参るのでございます」

〝外の者たちは如何致しますか〟

「外の者?」

〝映像、出します〟

〝なにをやってるのです〟

〝早くこじ開けるのです〟


 空中に映像が浮かび上がると同時に罵声が船内に響き渡った。映像には、私久(わたひさ)さん2人と4号君の姿があった。そして4号君がアトモス号に殴り掛かっている。手が血塗れじゃない。

 4号君が殴る度に船内スピーカーからはグチャッという肉が潰れるような不快な音が聞こえてくる。アトモス号はシールドのお陰でなんの被害も無いけど、代わりに4号君の手がとんでもないことになっているわ。


〝排除しますか?〟

「鈴?! なにを言っているか分かっているの!」

(かりぇ)りゃはパパを傷付けた明確な敵です。排除します〟

「止めなさいっ!」

「スズ様、殺ってしまうのでございます」

〝鈴ちゃん、手加減は無用です〟

「2人ともなに言っているのよ! 鈴になにをさせるつもり!」

「トキコ様、お忘れでございますか。スズ様はこういうことをするために作られた存在なのでございます。今、スズ様はその存在理由を全うしようとしているのでございます。それを止めるということは、スズ様の存在を否定することになりかねないのでございます」

「ならないわよっ。鈴! 貴方はそんなことしなくてもいいのよ。そんなことをさせるためにパパとママは鈴を産んだんじゃないわ」

〝ママ……11260いちまんいっせんにひゃくりょくじゅう号はもう要りゃないということですか?〟

「違うわっ。貴方は必要な存在よ。要らないのは貴方に教えたことよ」


 実際に教えたのは私たちじゃないけど。


11260いちまんいっせんにひゃくりょくじゅう号が教わったこと……?〟

「そうよっ」

〝うう……わ、分かりゃない……11260いちまんいっせんにひゃくりょくじゅう号は……〟

「違う! 貴方の名前は鈴よ。11260号なんかじゃない!」

〝うう……す…………ず……?〟

「そうよ!」

〝う……ううう……うああっ〟

「鈴っ!」

〝…………外の者は放置すりゅ。このまま地上へ出りゅぞ〟

「…………鈴?」

〝なぁに? ママ〟


 なんか……鈴の喋り方が変わったような。気のせい? 元々あまり子供っぽい子ではなかったし。でもそういうことじゃなくて、もっと根本的な…………


「なんでもないわ。そうして頂戴」


 顔が見えないから余計分からないわ。それに〝なぁに? ママ〟なんて甘えた声、私に対して一度もしたこと無いのに。嬉しいけど、今は不安にしかならないわ。

 それとも、私たちの声がやっと届いた……なんて楽観視していいのかしら。

 鈴、貴方は一体……


〝了解。アトモス号、発進します〟


 そんな不安を余所に、普段どおりの鈴の返事が船内に響いた。

次回、勢揃いです

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