第160話 どうやって穴掘りをしているのか
ん? なんだろう。地鳴りみたいなものが上から聞こえてくる。見上げてみると天井が震えている? だんだん音が大きくなってきたわ。
「きゃあ!」
バチンという大きな音と共に目映い光が降り注いだ。私は目を瞑り、耳を塞いでしゃがみ込んだ。なにが起こったの?
〝ママ!〟
この声は、鈴? 見上げると、そこにはアトモス号が天井に大穴を開けて降りてきていた。
「鈴! 無事だったのね」
よかった。アトモス号はそのまま高度を下げていき、私の前に着陸した。
〝乗ってください。脱出しましょう〟
「ええ。でもナームコさんとデイビーさんが残っているわ。探して連れて帰らないと」
〝了解〟
黒犬君を……うっ、お、重い。なら[身体強化]を使って……うん、これなら持てるわ。
黒犬君を担いでアトモス号に入ると、フブキちゃんが出迎えてくれた。
「わうっ!」
「フブキちゃん! 無事だったのね。よかった」
黒犬君を床に置き、残りの頭と前足を取りに戻る。
「わふっ」
「あ、ダメよ。フブキちゃんは外に出たらダメ」
「わうぅ……」
「良い子ね、よしよし」
黒犬君の回収を終えて、ブリッジに降りていく。
鈴は水槽の中に居た。
「鈴! 怪我は無い? 大丈夫?」
〝はい。11260号は平気です〟
「ごめんなさい。ママ、酷いことしたよね」
〝必要な処置でした。問題ありません〟
「違うわ。なにも考えずに――」
〝デイビー小父さんの回収が終了しました〟
「え? あ、はい」
もう?! どうやって?
〝ナーム叔母さんの回収に向かいます〟
「分かったわ。お願いね」
〝了解〟
ナームコさん、無事かな。私久さんが上に来たってことは、やられちゃったのかな。ううん、きっと逃げられたはずよ。
「トキコさん、無事みたいですね」
「ご主人様! はい、問題ありません」
「よかった。火鳥は役に立ちましたか?」
「はい。お陰様で助かりました」
「それはよかった。エイルさんがモナカ君を連れて行ったって、本当ですか?」
「はい。まず間違いありません」
「そうですか。エイルさん、見つかったんだ…………でも、戻ってきてはくれなかったんですね」
「はい。説得はしてみたのですが、力及ばず……申し訳ありません」
「トキコさんは悪くありません。エイルさんにも事情があるんでしょう。ただ、エイルさんはモナカ君をどうするつもりなんでしょう」
「分かりません」
「モナカ君は動けるようになったんですか?」
「なっていないと思います」
「そうですか……」
「いやはや、酷い目に遭いました」
「デイビーさん? 無事だった……きゃあああああ!」
「ス、スライムだぁぁぁぁっ!」
船内にスライムが入り込んだの? いつ? どうやって?
「僕ですよ。デイビーです」
「え?」
「ひぃぃ……い?」
「デ、デイビー……さん?」
「はい。こんな姿ですが、僕はデイビーです」
ただのスライムにしか見えないわ。
「元の姿には戻れないんですか?」
「そうですね。戻ろうにもどうやってあの形を保っていたのかを知りません」
「知りませんって……」
「アニカ様はどうやってその形を保っておられるので御座いますか」
「ええ?! えーと……分かりません」
「そうですね。恐らく誰も答えられないと思います」
「そんな!」
「トキコ様はどうですか。お分かりになりますか」
「えっ……といわれても、長い年月を重ねてこの形に進化したとしか……」
「左様で御座いますか。困りましたね」
「身体は大丈夫なの?」
「この状態を大丈夫というのであれば、大丈夫ですね」
「そうじゃなくて! どこか痛いとか不自由しているとか、そういうこと」
「何処も痛くはありません。歩くというよりは跳ねるとか這いずるといった感じでしょうか。物は……持てそうにありませんね。食事はどうでしょう。その辺の検証は後々やるとして、大きな問題は無さそうです」
無いんだ。
そもそも口が無いのにどうやって喋っているんだろう。
そういえば目も見当たらないわ。でも問題無いってことは、見えているってこと?
「これまでのことは覚えていますか?」
「それが、スライム化してから今までのことは、ぼんやりとしていて殆ど覚えていないのです」
「そうですか」
「ですからどのような感じだったのかを教えてほしいのです」
「私は知らないわ」
「ボクも知りません」
「スズ様は如何でしょうか」
〝デイビー様に話しかけても、返事はありませんでした。袋の中で大人しくしておりゃりぇました〟
「袋……ああ、左様で御座いますか。ナームコ様は如何でしょう」
「ナームコさんは船に乗っていません。今迎えに行っている最中です」
「左様で御座いましたか」
「鈴、どう?」
〝現在、掘削中です〟
「掘削? 掘っているの?」
〝はい。アトモス号は宇宙船ですので、どうしても掘りゅのには時間が掛かります〟
「そ、そう」
普通は掘ることそのものが出来そうにないけど。でもこんな大きな船が潜って建物は大丈夫なのかしら。
次回、回収しましょう