第158話 戻るわけないでしょ
「10数えるのです。その間に返すのです。返さない場合は代わりに首を貰うのです」
「無い物は返せないわよっ」
「1です。2です」
完全に無視だわ。もう手は無いの?
『火鳥さんに頼みましょう』
『どうやって?』
「3です」
『貴方が頼むんですよ。私には出来ませんからね』
『だから、どうやって頼むの?』
「4です」
『私が知るわけないじゃないですか』
『私だって知らないわよ』
「5です」
『もう半分ですよ。早く!』
『そんなこと言われたって、そもそもなんて頼めばいいのよ』
「6です」
『そのくらい自分で考えて下さい』
『そんな!』
「7です」
『えーと……えーと……あああああ』
「8です」
『火鳥さん火鳥さん、なんとかして下さい』
「9です」
『そんなんでなんとかなるか、バカーッッ!』
『そんなこと言ったって!』
「10です」
『『きゃーっ!』』
ああ、これで私の首ともお別れなのね。それとも身体とお別れ? どっちかしら。
モナカごめん。もう会えないかも。
エイルさん、モナカのこと頼んだわよ。あ、でも充電できるのかな。私が死んだらモナカも充電切れで死んじゃうんだ。
ふふっ、なら先に行って待っているわ。もし逢えたなら、もう少し素直になってみてもいいのかな。
でもお姉ちゃんも一緒に来るだろうから、勝ち目無いかも。
…………長いわね。首を切られても痛くないし、死ぬまで結構掛かるのね。
「なにを言っておる。まだ死んではおらぬぞ」
「ふえ? あっ、火鳥さん!」
『とうとう本物の精霊になってしまったのですね』
人間として死んだけど、精霊として転生したってこと?!
「今度はなんです!」
火鳥さんが4号君の手を羽で防いでくれたんだ。
そして火鳥さんに触れたことによって、4号君が火だるまになっている。でも熱がっている様子も無く、ジッと私を見つめている。
「ほっ、ちっとばかし火力が足りんかったようじゃの」
また4号君が消えた! と思ったら後ろで叩くような音も聞こえてきた。
あれ? 火鳥さんも居ない? あっ、2人とも私の後ろに居たわ。
また2人とも消えた! 今度は音だけが私の周りからビシバシと聞こえてくる。時々視界の前をなにかが通り過ぎているみたいだけど、はっきりと見えないよぅ。多分2人……だよね。
『全然見えない……』
『そうですね。映像もブレててなんだかよく分かりません』
一際大きな音が聞こえたと思ったら、火鳥さんが現れた。その前の方に胸を押さえている4号君が居る。あっ、胸に足跡状の窪みがある! 火鳥さんが蹴ったの?
「ふぉっふぉっふぉ。まだまだ青いのぉ」
「なんなのですなんなのです。貴方はなんなのです」
「火鳥さん、上!」
今度は3号君が襲ってきた! でも火鳥さんから火柱が上がったと思ったら、3号君は炭になってバラバラと落ちてきた。私は炭になんて出来なかったのに……
「ふむ、やはり火力が弱いの」
あれで?!
「さて小僧、まだやるかの。もう十分じゃと思うのじゃが……」
4号君はなにも言わず、ただジッとこちらに顔を向けている。火だるまだから分からないけど、多分私を見ているんだろう。……熱くないのかな。
「ふむ、ワシは無視のようじゃの。嬢ちゃん、モテモテじゃの」
「嬉しくないよぉ」
『時子にはマスターがいるんですから、ちゃんと断るんですよ』
「絶対そういうことじゃないでしょ!」
「ふぉっふぉっふぉ」
「5号君、僕を無視しないのです!」
「ふぉ?」
えっ、今度は5号君が来るの?!
何処から…………辺りを見回しても、なにも来ない?
「嬢ちゃんよ、あやつはワシにゆうておるのか? 意識はワシに向いてるようじゃが、言語が分からぬでの」
「え? 違うと思いますよ。5号君に向かって無視するなーと言っていますから」
「なるほどの。つまりワシが5号君ということのようじゃの」
「そうなんですか?」
「まず間違いないのじゃ」
つまり……実験体5号君ってこと?! 紛らわしいのよっ!
「実験体のぉ。ふぉっふぉっ、身の程知らずじゃの」
「5号君、2号君を連れて戻ってくるのです」
ええー、どうしてそんな命令を聞くと思っているのかしら。そんなの、聞くわけないじゃない。
「なんと言っておるのじゃ?」
「私を捕まえて戻ってこいって」
「ふむ。のう嬢ちゃん、行ってみるかの」
「はい…………はい?」
次回、敵意とは