第157話 犬は歩かずとも棒を失う
「捕まえたのです」
「ひゃあ!」
スライムの壁の上から私久さんがニョキッと生えてきた!
「観念するのです」
3号君に支えられて、上から弟さんも来た!
これじゃあ余計使えないよぅ。
「ふあふあふあ。口から火を吐くということは、火袋を持っているです?」
火袋ってなに?
「さあ、知夏から奪った端末を返すのです」
え、誰?
だから多分盗っていったのはエイルさん!
「知夏からです? 端末とはなんのことです?」
「兄さんには関係ないのです」
「関係なくないのです。話すのです」
「くかかかかか。本人に聞くのです」
「知夏の邪魔は出来ないのです。貴方が言うのです」
なんか、また言い合いが始まったみたい。この隙に一点突破できないかしら。
大きく息を吸い込んで、広げるんじゃなくて纏めるような感じで、一気に吐き出す!
よし、細くて勢いのある炎が出たわ。スライムの壁を物ともせず貫いて、内側から燃え広がって通れるくらいの穴が開いた!
「熱いのです!」
「今よ!」
〝わうっ!〟
「またなのです! これ以上は看過できないのです!」
よし、スライムの包囲網を抜けたわ。後は一気に走り抜けるだ…………け………………
嘘……でしょ。スライムの壁を抜けた先に待ち構えていたのは、スライムの壁だった。
「逃がさないと言ったのです」
またスライムの壁から私久さんが生えてきたわ。
もう一回よ。
「無駄なのです! 同じ手は通じないのです」
スライムに穴が開いて躱された?!
ならこのまま横になぎ払って……穴も横に移動して全部避けたの?!
広範囲だと火力不足。一点集中すると穴を開けて避けられる。どうすれば……もう、本当に火嵐しか手がないの?
…………だったら。
「[冷凍吐息]!」
凍らせればいいのよっ。
「「なんです?!」」
やった!
3号君は燃やしても燃えたまま襲いかかってきたけど、凍らせてしまえば動きが取れない。
スライム壁も凍り付いて、燃えたときみたいに剥がせないみたいね。
これなら飛び越えて行けそう。
「黒犬君、行って!」
うわ……息が真っ白! 耳打ちしたら耳が凍っちゃうのかな。
〝わうっ!〟
「待つのです」
「4号君! 行くのです!」
4号君?! 一体何号君まで居るのよっ。
氷の壁を飛び越えた先に居たのは……人間? あれが4号君?
私たちを見つけ、その顔を向けてきた。恐ろしくはない。何処にでも居そうな髪の長い全裸の……男の子?
拳を握り、キッと私を睨むと……あれ? 何処に行ったの?
『危ないっ』
そう聞こえたときには、黒犬君の頭が無くなっていた。
「黒犬君?! 大丈夫?」
〝…………〟
返事は無いけど、まだ動けるみたい。
あれ。居なくなったと思った男の子がさっき居たところに立っているわ。
なにかを片手に掴んで持っているみたい。さっきは持っていなかったよね。
……あれ、ナームコさんの頭?! 今の一瞬でもぎ取ったってこと?!
「無駄な抵抗は止めるのです。抵抗するなら、次は貴方の首を頂くだけです」
「なにを言うです。2号君は生け捕りにするのです」
「盗人を生かしておく意味はないのです」
「貴重な実験体なのです」
「さあ、知夏特製の腕時計を返すのです。それは私のなのです」
「腕時計です?! それは僕のために作っているものなのです」
「私の依頼品です。兄さんのではないのです」
またやっている。今のうちに……
「きゃあ!」
黒犬君が急に前屈みになったので、首にしがみ付いた。でも前屈みになったというより、落ちたような感じだわ。お尻痛い。
ガシャンとなにかが落ちる音がしたからそっちを見ると、4号君の足下に2本の棒が落ちていた。
違う、棒じゃない。黒犬君の前足だ!
「逃げようとしないことです」
「は、ははっ……次は、私の首じゃ、なかったの?」
『挑発してどうするんですかっ』
『だってぇ』
『震えるくらいなら言わなきゃいいのに』
「分かったのです。次は首にするのです」
『ほらぁー。バカ言うからこうなるんだよっ』
『だってぇ!』
『だってじゃありませんっ』
「殺してはダメなのです!」
「殺されたくなければ、端末を返すのです」
「だからぁ、私は持っていないんだってば!」
万事休す?
次回、火力不足