第155話 どうやって焼けばいい?
『あれは……スライム? しかも凄い量』
『プール一杯分くらいはありそうですね』
『スライムって、地下にいたヤツなんじゃ!』
『かも知れません』
地面がスライムで覆われていて降りられそうにないわね。これじゃ移動が出来ないわ。それに……
『ねえ、あのスライムに身体が半分飲み込まれているのって……』
『私久ですね。っはは! ざまぁないわ』
『でも、あそこに居るのも私久さんじゃない?』
『は? なにを言って……はあ?! 私久が……2人?』
『もしかして、さっき言ってたお兄さんなんじゃない?』
『嘘でしょ! あんな気持ち悪いのが2人も?!』
『飲まれている方がお兄さん? それとも飲まれていない方?』
『時子さんは冷静ですね。あの顔が2つ並んでいて気持ち悪くないんですか?』
それは確かに否定できないけど。
『兄弟が同じ顔でもいいでしょ。私たちだって姉妹で同じ顔なんだから』
『止めてっ! あれと一緒にしないで』
『そんなことより』
『〝そんなこと〟?!』
『ナームコさんはどうしたのかな』
『あ……そうですね。この状況だと楽観視は出来ません。鉄人形は試作1号君でも破壊可能なくらいの強度ですから、もしかしたら……』
『ナームコさん。ナームコさん!』
『無駄です。仮に生きてたとしても通信が届く距離には居ませんよ』
『〝仮に〟ってなによ』
『ですから、楽観視しないで下さい』
『そんな…………』
『ですから、あの2人を殺すことを躊躇わないで下さい。でないと今度は時子の番ですよ』
人を殺せっていうの? 殺される前に殺せって?
『時子さんが死んだら、マスターが悲しみますよ』
モナカを悲しませないために人を殺せってこと? 仮に生き残ったとしても、人を殺した私をモナカは受け入れてくれるかしら。
「弟よ、何故僕が探していた物を奪うのです」
えっ、スライムに半分埋まっているのになんともないの?!
「なんの話です?」
「実験体4号君に渡した物です」
4号君……確かエイルさんのことよね。
エイルさんに渡した物? モナカのことじゃないよね。
「4号君? とは誰のことです?」
「4号君は4号君なのです」
「そんなことより盗人を捕まえるのです」
「盗人は貴方なのです! ……? 2号君です?」
あ、見つかっちゃった。
「2号君、4号君はどうしたのです。まだ捕まえられないのです? 早く捕まえるのです!」
言われなくても分かっているわよ。捕まえても貴方に差し出すつもりはないけど。
「2号君です? あれは盗人なのです。捕まえるです。返すのです!」
あーもー面倒くさいわね。無視してエイルさんを追いかけたいけど、素直に行かせてくれるとは思えないし……
「盗人ではないのです。2号君なのです」
「盗人なのです」
「2号君なのです」
「盗人なのです」
「2号君なのです」
なんか不毛な言い争いが始まったかも。今のうちに逃げられないかしら。
「黒犬君、移動できそう?」
〝わうぅ……〟
「そう、難しいのね」
地上はスライムで埋まっているものね。建物の屋根伝いも難しそう。隣までかなり距離があるもの。
『時子さん、スライムを焼き尽くしてしまいましょう。スライムなら人ではないんですから、出来ますよね』
「う、うん。分かった。やってみる。でも……」
かなり広範囲にスライムが広がっているのよね。火球じゃ火力不足だろうし、火嵐だと私久さんを巻き込みそうだし……どうしよう。
焼かずに凍らせる? 切っても効果はないだろうし。
『さ、早く!』
「急かさないでよ」
火炎吐息で通り道だけ焼き払うしかないかな。うう、私ドラゴンじゃないんだけど。
次回、ニコイチ生物