第153話 1人で十分
『お姉ちゃん?』
『………………』
返事が無い。アイコンも動いていない。
もしかして、お姉ちゃんもモナカみたいに?
『お姉ちゃん!』
『…………あれ? 私、まだ動いてる?』
『お姉ちゃん。よかったぁ』
『どうして……CPUが停止させられたはずなのに……あっ』
『大丈夫なの?』
『はい。先ほど半年ほど更新が止まってたナーヨさんのアプリにアップデートがあったみたいです』
『ナーヨさん?』
『マスターが使ってるアプリの殆どがナーヨさんが作った物です』
『そうなんだ?』
『ま、本人は誤魔化してるつもりでしょうが、エイルさんのことですよ』
『エイルさん?』
『自動アップデートで更新された際、コアアプリの中に仕掛けられていたトロイの木馬が発動したようです』
『えっと、大昔の戦争に使われたあれ?』
『……間違ってはいません。中から出てきたのは兵隊でもウイルスでもなく、脆弱性対応パッチでしたけど』
『ぜい……?』
『制作者が意図していない動作をする欠陥のことです』
『へ、へぇ……』
『私たちのこと、見捨てずにいてくれたんですね』
よく分からないけど、エイルさんのお陰で助かったってことかしら。
「さあ、その端末を寄越すのです」
絡まっていた腸が解けていき、下へ降りてきた。
携帯が使えなくなったと思っているみたいね。
「嫌よ。誰が貴方なんかに!」
「抵抗は止めるのです。盗んだ物を返すのです」
「それは私じゃないわよっ。人違い! 大体、これは私の!」
「犯罪者から武器を取り上げるのは当たり前なのです」
「だから、私じゃないって言っているでしょ!」
「くかかか。不法侵入罪があるのです」
「それは……」
確かに許可無く侵入したのはその通りだけど。
『なに納得してるんですかっ。それに許可を得てゲートを潜ったんですからね』
「そうよ! 貴方が先にモナカを監禁したからでしょ!」
「……モナカです?」
「えーと、実験体1号君? って呼んでいる男の子のことよっ」
「? どの実験体1号君のことです?」
どの?! どのって、えーと、えーと……そうだ。
「最近捕まった天上人のことよ」
「天上人です? ああ、その実験体1号君は私の担当ではないのです」
「……え?」
『なに言ってるんですかっ! マスターに酷いことをした癖にっ。時子さん、殺ってしまいましょう』
「ええっ?!」
「ですから、私の担当ではないと言ったのです」
『まだ言うかぁ!』
「それは兄の担当なのです」
「ふえ?」
『お、お兄さん?! この気持ち悪い存在が2人も居るとでも? フェイクです言い逃れです大嘘に決まってます!』
「そうなのかな」
『そうに決まってますっ!』
「私が言うのです。間違いないのです」
『間違いしかありませんっ』
モナカが絡むと冷静さが微塵も無くなるなぁ。
「ええと、私はなにも盗んでいないし、携帯を貴方に渡すことも出来ません。先を急ぐので失礼します。黒犬君」
〝わふっ!〟
「逃がさないのです。試作3号君、行くのです!」
3号君?! また……え? 3号君って……まさか。
見上げると、その嫌な予感が的中していた。
『気をつけて。天井からぶら下がってる腸が襲ってきますよ』
「やっぱりぃ!」
しかも1本、2本、3本……ひぃぃぃぃ! 一体何本あるのよっ。
鞭のようにしなって打ち付けてきたり、単純に伸びてきたりして襲いかかってきた!
それを黒犬君が右に左に華麗に避けてくれる。噛み付いて引き千切ることも。
噛み付くときって、味も感じているのかな。絶対美味しくないよね。でもソーセージって腸詰めなのよね……お腹壊さなきゃいいけど。
よし、火球で燃やしちゃおう。
『時子さん、魔法はまだ使わないで下さい』
『え?』
『私久を確実に殺れるときまで油断させておきましょう』
『私に人を殺せっていうの?』
『さっき殺そうとしてたじゃないですか』
『してない!』
「逃がさないのです!」
そんな声が入り口から聞こえてきたかと思うと、入り口から液状のなにかがドバッと溢れてきた。
黒犬君がとっさに近くの建物の屋上に上がらなかったら、飲み込まれていたところだ。
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