第150話 肉人形
「くかかかか。今度は受け止めたのです? 次はどうです? 試作1号君、行くのです!」
試作1号君? えーと、私たちは実験体とか言われていたからまた別のなにかなのね。
再び鉄人形を打ち付ける音が響き、壁となっていた鉄人形たちが後ろに吹き飛ばされた。そこへ別の鉄人形たちが一斉に襲いかかっていった。でもあっという間に弾き飛ばされ、何体かは壊されちゃったみたい。
「ひいっ」
鉄人形たちが再び集結して隊列を整え、壁を作り上げた。でも壁が完成する前の隙間から相手の姿がチラリと見えた。その姿は……
『お、お義姉ちゃん! あの人、首が……』
『ええ。ポッキリ折れてましたね』
『折れているどころか、もげそうだったよ』
『3分の2くらい千切れてましたね』
『それに手だって……』
『素手で鉄人形を殴れば潰れるのは当たり前でしょう。既に手の形を無くしてました』
足だって不自然に折れ曲がっているし、身体だってお腹が抉れていてボロボロで血だらけだ。
『い、痛くないのかな』
『この状況で言うことがそれですか?!』
『だって……こんなの頭が追いつかないよ』
『まったく……そうですね。首が折れているから神経が切れていて痛みを感じないのでしょう』
『な、なるほど?』
『納得しないで下さい。普通なら全身不随で動けませんから』
『あ、そっか』
『そもそも生きていることの方が不思議です』
『じゃあ、ゾンビってこと?』
『かもしれません』
『じゃあ、噛まれたら私もゾンビになっちゃうのかな』
『なんらかの感染症でゾンビ化するかも知れません』
『やっぱり!』
『その手のウィルスでもあの私久が完成させて……それはおかしいですね』
『どうして?』
『私久はあの個体を試作1号君と呼びました。もしウィルスを打ってゾンビ化させたのなら試験体1号君と名付けるはずです』
『な、なるほど?』
『つまりあの個体自体が試作品ということになりますから、ゾンビではないかも知れません』
『へ、へぇー』
つまり……どういうこと? ゾンビじゃないってこと? 噛まれてもゾンビにならないってこと?
『わかりました!』
『な、なにが?』
『あの個体はアンドロイドです』
『アンドロイド?』
『はい。各所に機械が埋め込まれていて、お互いが無線でデータのやり取りをしているようです。だから神経が切れていても問題がないんです。痛みも伝えなければ痛くありませんから、脳に伝えずカットしているのでしょう』
『そ、そうなんだ』
『厄介ですよ。体中に脳みそがあるようなものです』
『ひいっ!』
そんな気持ち悪い身体なの?!
『バラバラにするだけでは倒せません。それこそすり潰すくらいのことをしないと』
『怖いこと言わないで!』
『なに言ってるんですか。そのくらいしないと時子さんがすり潰されますよ』
『だから怖いこと言わないで!』
『なに言ってるんですか。相手は躊躇なく時子さんをすり潰しますよ』
『いやーっ、怖いこと言わないでっ!』
た、確かに。見えないけど今も鉄人形を相手に殴り合っているみたい。
肉のひしゃげる音と金属音の混じり合った音が辺りに響きわたっているもの。
幾ら痛みを感じないからって、あんなになってもまだ叩けるものなの?
「くかかかかかかか。いいのです、いいのです。次の段階に入るのです。材料は、沢山あるのです」
材料?
「[材料収集]」
な、なになに?! 鉄人形でなんにも見えない!
『なにが起こっているの?』
『時子さんは見ない方がいいです』
『見たくはないけど、分からないと見えちゃったときに大変だと思うの』
『好奇心は猫を殺しますよ』
『そうだけど……』
『はぁ……警備員の死肉が私久の元に集まってきてます』
『死に……』
『凄い量が集まってきてます。確かに材料は沢山ありますね』
〝材料〟……
『白衣のポケットに両手を突っ込んでなにかの部品を取り出して、集まってきた死肉に投げつけました』
「[コード変換]」
『死肉と部品が混ざり合って……大きな人の形になりつつあります』
大きな……
う……鉄人形の壁を越えてそれが見えてきた。
赤黒い肌のそれは、確かに人の……
「ひいっ、なにあの顔!」
『なるほど。目を一纏めにせずそのまま再利用して昆虫の複眼のようにしているようですね。あれなら動く物に素早く反応できそうです』
「感心しないで! それに目だけじゃないじゃないっ」
『耳や鼻や口といったそれぞれの部位が集まって形を形成しているようです。身体や手足は1つに纏まっているのに、チグハグですね。あっ、指はそのままなんだ。大きな手足に小さな指が沢山付いてますよ。あれ、役に立たないんじゃないですか?』
「知らないわよそんなこと!」
なんでそんな冷静に分析できるの?
次回、トウモロコシってどうやって食べます?