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第145話 ポチ? それとも父さん?

 ん? ここ、ポチが掘った壁よね。なんでトンネルになっているの?でもこの高さじゃポチは通れないわね。

 モナカを背負い、ポチから飛び降りてトンネルに入る。中はしっかりとしたコンクリートに覆われた、綺麗なアーチ状の構造物に生まれ変わっている。

 誰がこんなことを……モナカが? いえ、こんなこと出来そうなのはタイムかナームコさんね。

 トンネルを抜けて小部屋に入る。ポチが掻いたときの残土で埋まった階段はそのままなの? じゃあこのトンネルは……誰が?

 ん? よく見ると階段は掘り起こした後、天井が崩落して埋まったみたいね。トンネルはしっかり作ったのに、こっちはただ掘っただけ? 随分とチグハグね。


「ポチ、また頼める?」

「「「がうっ!」」」

「あ、トンネルを埋めないように気をつけて掘るのよ」

「「「が、がう……」」」

「まあ待て待て」

「父さん? なにか用?」

「なにか用って、用がなかったら――」

「出てこないで」

「酷い!」

「いいから、さっさと用件を言いなさい。本当に用が無いのなら、首をもぐわよ」

「あるよっ! もー、どうしてこんな凶暴な性格になってしまったんだ」

「そんなに首をもがれたいの?」

「ここを掘るとモナカ君たちが乗ってきた船の前に出ることになるぞ」

「それが?」


 どうせ無人……ああ、そういえばアニカさんとフブキが留守番をしているんだったわね。


「留守番の精霊召喚術師と雪狼(せつろう)に会うことになるぞ」


 あの子の言ったとおりだわ。

 アニカさんは誤魔化せても、周りに居る精霊が気付きそうね。それにフブキが居るなら、匂いで私に直ぐ気づくわ。出来れば気づかれたくないわね。

 いえ、そんなことより!


「父さん、魔法陣は?」

「ああ。先ほど描き終わった。那夜(なよ)が戻ってきたら発動予定だ」

「待って!」

「ん? どうかしたのか?」


 発動したらフブキが死んでしまうわ。ならこのまま外に出て保護した方がよさそう。


「このまま船の前に出るわ」

「いいのか?」

「フブキを保護するわ」

「……許可できないな」

「どうして!」

「イーブリン様のご命令だ」

「は? 千年ババアの言うことなんか知るか。フブキは私の大切な――」

「その家族を捨ててここに居るんじゃなかったのか」

「……それは…………」


 都合がいいことを言っているのは確かだ。今更家族面して出て行くなんて、厚顔無恥もいいところだ。

 私は手を汚しすぎた。もうあの場所には戻れない。時子にそう言ったばかりじゃない。


「いや、すまん。父さんが意地悪だったな。だからそんな顔をしないでくれ」

「……は? なんのこと? 私は私が決めた道を(たが)えるつもりはないの。別ルートで出るわ」

那夜(なよ)…………」

「「がうっ」」

「掘り終わったの? なら崩落しないように固めておきましょう」

那夜(なよ)……」

「別に……せっかくポチが苦労して掘ったのにまた崩落したら勿体ないでしょ! それだけよ、それだけ。この後誰が通るかとか、関係ないわ」

「そうか……ふっ、そうだな。なら父さんに任せなさい」

「父さんに?」

「父さんは結晶化の魔法が得意なんだ。見てろよーっ。そらっ」


 うわっ……凄い! 普通は溶融された分子が飽和状態になって結晶化現象が起こって少しずつ出来ていくのに、そんなことを無視して綺麗な結晶が出来ていくわ。

 まるで水晶の洞窟に迷い込んだみたい。凄く綺麗……

 毒素もこうやって結晶化したのね。

 軽く叩いてみたけど、凄く堅いわ。これなら崩落する心配は無さそう。

 ……ん?


「どうしたの?」

「はぁ、はぁ、いや、なに、さすがに、これだけの、はぁ、量を、はぁ、はぁ、単に、魔力が、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、…………」


 ああ、疲れたのね。


「大丈夫?」

那夜(なよ)……」

「よしよし、お疲れ様。ゆっくり休みなさい」

「ああ、そうする」

「ごめんね、変態親父が無理した所為で」

「……那夜(なよ)?」

「父さんはさっさとポチから出てって」

那夜(なよ)?!」

「ポチ、お水飲む? それともお腹空いた?」

「「がうん、はっはっはっはっはっ……」」

「お水だけでいいの? ちょっと待ってね」


 お皿……何処にしまったかしら。


那夜(なよ)ー」

「五月蠅い、黙れ」

「酷い! 父さん、はぁ、はぁ、頑張ったのにぃ」

「はいはいお疲れ様。水飲んで帰りなさい」

那ー夜ー(なーよー)……」


 それだけ元気なら十分でしょ。

 あった。3皿にお水を注いで……


「はい、仲良く飲むのよ」

「「がうっ!」」

「……もしかして」

「それ以外無いでしょ」

「父さん、コップの、お水が、はぁ、飲みたい」

「身体はポチなんだから我慢しなさい」

那夜(なよ)ー」

「嫌なら自分の身体に帰ってから飲みなさい」

那夜(なよ)が出して、くれたお水がいい、はぁ……はぁ……」

「自分で出しても同じでしょ」

「全然違う! 構築手順とか、魔力分布とか、――」

「はいはいはいはい、なら文句を言わずに飲む!」

「うう……」


 まったく。

 大体こっちで飲んでも喉なんか潤わないでしょうに。なに考えているんだか。

 不満そうな顔でお皿からペロペロ飲んでいる。

 なんだろう。あれが父さんが水を飲む姿かと思うと悲しくなってくるわ。犬なんだから当たり前の姿なんだけど……そうよ、あれはポチ。父さんじゃないわ。

次回、禁じられたスキンシップ

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