第143話 本当の無差別
半減期が1時間になりますが、その原因の大半は自食作用の強化なのでございます。しかも正常な細胞同士の食い合い。無差別の本質を理解せず解放するからこうなるのでございます。なにしろ侵食君にとってもっとも栄養になるものは自分自身なのでございますから。
『何故です! 狙うのはそこの旧型なのです。何故自分を狙うのです!』
『なにを仰られておられるのでございます。そう命令なされたのは貴方様ではございませんか』
『僕はそのようなことを命令していないのです! 貴方が、貴方が干渉したのです!』
『いいえ、わたくしではございません。ご自分で〝試験体を最終段階に進める〟と仰りやがられておられたではございませんか』
『…………』
『当然その対象は自分自身ということなのでございます』
『なら命令を書き換えるだけなのです』
『おーっほっほっほっ。暴走した偽侵食君がそんな命令を聞くわけがないのでございます。一度捕らえた獲物を放すほどの命令を? 貴方が? できるとでも? お思いなので? ございますか? はっ! 自惚れるのも大概にしろっ! 貴様のような浅はかで卑しいものに、まともな物が生み出せるわけがなかろう! 恥を知れっ』
『まさか。まさかまさかまさか! そんなはずないのです! これは全て貴方の責任なのです』
は? わたくしがなにをしたというのでございましょう。
『このような欠陥を残したままにしているのが悪いのです。責任を負うのです。謝罪するのです。賠償を払うのです。全てを開示するのです。ふっ、ふあっ、ふあーっふあふあふあふあふあふあふあ!』
全てをわたくしに擦り付けるおつもりでございますね。関わるべきでない相手……ということでございますか。さっさと終わらせてしまいましょう。
『でございましたら、全ての責任を取って、最期と致すのでございます』
『……なんです?』
『最期とするのでございます。貴方様には見つけられない、操ることの出来ない最期の因子を発動させるのでございます』
そう、これで狂わされた侵食君を苦しみから解放するのでございます。お量さんで魔力を使わされたときは焦ったのでございましたが、時間稼ぎをしたお陰でなんとか回復したのでございます。
さあ侵食君、お別れなのでございます。
『! どういうことです。細胞が加速度的に死滅しているのです! 貴方……なにをしたのです』
『暴走しても、それを止める手段がなければ自分の身に危険が及ぶというものなのでございます。当然対策するものなのでございます』
『まさかこれは……壊死です? 違うのです。腐死です?』
『無差別と申しても、通常は他個体を狙うものでございます。ですが、本当の意味で無差別になりますと、もっとも手近な個体はなんだと思わりやがられるでございますか』
『それは……自分自身です』
『大変よく出来たのでございます。まさしく細胞レベルで見た自食なのでございます。多細胞生物といえど、所詮多数の細胞の集まり、他人の集まりでございます』
『何故そのような因子を不活性にしてまで入れるのです』
『はぁ。わたくしは既に説明して差し上げたではございませんか』
「ウムナナロケシエケムウムエウロワモラシ。イチシエイチエウムウロワモラシ」
あら、偽侵食君は自食し過ぎて思考か出来なくなったようでございます。それでは、あの男に引導を渡して終わりにするのでございます。
真侵食君、出番でございます! 思う存分、そこの男を侵すのでございます。
次回、性器の中にスイッチがあるわけではありません