第140話 なにもするな
とにかく誰かに従うのがお嫌なのでございますね。
『ならばあの男の従順な下僕となり、侵食君を倒せば宜しいのでございます』
『なっ。私は下僕などではないっ』
あら、意外と簡単に食いついたのでございます。
『おほほほほほ。従順な下僕ほど自分が下僕であることに気づかないものなのでございます』
『違うっ!』
『今までもなんだかんだと逆らわずに従っていたのでございましょう』
『それは仕事だからだっ』
『ほぉっほほほほほほほ! 仕事でございますか』
『そうだ』
『はっ。なんと都合の良い言い訳だな』
信念のあるヤツかと思えば、つまらない芥だったか。
『なんだと』
『仕事であろうがなんであろうが、ただ従順に従っているだけの小者であろう。間違っていようが信念に反しようが、〝仕事だから〟と楽な方に逃げる。社会人としては正解かも知れないが、わたくしから見ればつまらない存在だ』
『巫山戯るなっ! 私はそんな人間ではないっ!』
『小者にそれが証明できるとは思えんな』
『私は小者などではない。いいだろう。貴様の挑発に乗ってやる』
挑発などではないのだがな。
『貴様の力など要らんっ。私久は私の意思で私の力で倒す!』
『ほう。ならば示して見せろ。出来たなら小者と言ったことを詫びてやろう』
『っは! 面白い。貴様に詫びさせてやるっ』
なんとチョロいお方でございますか。
とはいえ、あまり宜しくない状況なのでございます。どう足掻いても抗偽侵食君は劣勢なのでございます。
偽侵食君同士に性能差は無いのでございます。しかし、この方は全く使いこなせておりませんが、あの男は改造しやがられただけのこともあり、かなり使いこなしやがっておられるのでございます。このままでは結果は目に見えているのでございます。
わたくしがこの方を立てつつ支援しなければならないということでございますか? 兄様でもないこのお方を……でございますか?
ああ、やはり劣勢なのでございます。息巻いていても所詮は無知な獣……博識な獣に勝てるはずもないのでございます。数を減らされ、戦力を減らされ、手も足も出ないとはこのことでございますね。
もっとも、侵食君には元々手足などございませんが。
『わたくしに詫びさせるのではなかったのでございますか?』
『うるせぇ! 今すぐ詫びさせてやるっ』
『息巻いていても、所詮は小者なのでございましょう』
『私は小者などではない! 黙って見ていろっ』
黙って見ていてはあの男の手駒になるのがせいぜいなのでございます。そうなるとわたくしでも偽侵食君をどうにか出来そうになくなるのでございます。
『使えるものは親でも使うのが得策でございます。わたくしから力を授かるのではなく、わたくしを利用すれば宜しいのでございます』
『ああ? だったら大人しく私の言うとおりにしろ』
『承知したのでございます』
はぁ、面倒な御仁でございますね。
『それで、わたくしはなにをすれば宜しいのでございますか』
『そこで見ていろ』
『…………は?』
『そこで見ていろと言ったんだ! うがあああああっ』
はぁぁぁぁ。やはり無知な獣に期待したわたくしが大馬鹿野郎でございました。かといって無理矢理力を授けようとしても、この獣は拒んで余計悪化しそうなのでございます。
となると、残るはあの男の邪魔をすることくらいでございましょうか。
次回、禁じられていなければやる?