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第14話 落ち着いている

 ここが最後の場所……

 見渡す限りなにも無いわね。本当にここなの?


「ここが何処だか分かるか」

「分かるわけ無いでしょ」

「はっはっはっ、それもそうか。ここにはかつて最も科学と魔法が混じり合ったところだ」

「科学と魔法?」

「そうだ。五千年前に星の半分と共に消え失せたあの都市だ」

「五千年前……まさか!」

「そのまさかさ」

「ここが……」


 魔法を突き詰めるのではなく、あくまで科学の補助として突き詰めた魔法を発展させた都市、マギンシヤ。

 失われた技術の宝庫と言われている。

 前世では歴史書の1ページでしかない場所。

 行ってみたかったけど、異世界に消えた伝説の都市。

 それがかつてここにあった。

 もう、跡形もなく消えてしまっているけど。


「見てみたかったわ」


 魔科学を極めていても、ここでは通用しなかったのね。


「魔法陣は父さんがやっておく。思う存分見てきなさい」

「見るもなにも、なにも無いわ」


 あるのは雪のように降り積もった灰だけ。


「いや、ちゃんと残ってるぞ。この下に」

「今から発掘しろっていうの?」


 灰だから簡単に掘れる……なんてことは無い。下の方は固まっていて結構硬い。


「そうだな。それも悪くないだろうが、する必要も無い」

「どっちなのよ」

「焦るな焦るな。こっちだ」


 言われるがまま父さんに付いていく。

 何処まで行っても灰灰灰、灰の山だ。地平線の彼方まで灰しか見えない。


「ここだ」


 父さんが足を止め、風の魔法を使って灰を舞い散らした。固まっているはずの灰も、そんな事実は無かったかのように舞い上がっている。

 そして数メートルほどの大きな蟻地獄の巣が出来上がった。

 父さんがすり鉢状の穴を降りていく。その後に続いて私も降りていく。蟻地獄のようにサラサラと中心部へなだれ込んでいくことはなく、しっかりと踏みしめられる。やっぱり固い……

 中心部で待ち構えていたものは、顎の大きな幼虫ではなく、床下収納のような扉だった。


「これは?」

「地下に埋もれた都市に行くための出入り口だ。そんな都市に覚えはないか?」


 覚えならある。

 (はじめ)さんたちが居た村の地下。私が初めて皆殺しにした場所。あの頃は悪夢に見た光景も、今はもう見ることがなくなった。だからといって忘れたわけではない。

 深呼吸をしてザワついた心を落ち着かせる。

 あの場所の地下には当時の都市が残っていた。そして人も生き延びていた。ということは……


「滅びずに残っているっていうの?」

「確かめてきたらどうだ?」

「いいの?」

「魔法陣が組み上がるまでだぞ」

「ありがとう!」


 失われた技術の宝庫。いまだに当時のレベルに追いついていないとさえ言われているほど高度な技術。

 それが今手が届くところにある。この扉の先にある。こんなに嬉しいことはない。思わず父さんに抱き付いてしまったくらいだ。

 扉を開くには……えーと、ここからハッキングすればよさそうね。

 よし。

 私は屈んで扉に掌を当てようとした。


「待て待て、そう逸るな。その身体のままじゃ無理だ。彼の携帯(スマホ)を操作できなかったのを忘れたのか」

「あれは純粋な科学の結晶。ここは魔法と科学の結晶でしょ。なんとかなるわ。いいえ、なんとかしてみせるわ」


 魔力を通して前世のときみたいに操作すれば……


「ならないよ。だから落ち着け」

「落ち着いているわよっ」


 一刻も早くこの扉を開いて中に入りたい。ただそれだけのこと。

 研究者としてこの上なく落ち着いている。

 焦って扉を壊すようなことはしないわ。


「分かった分かった。那夜(なよ)は落ち着いてる。だから父さんの話を聞こう、な?」

「……分かったわよ。私は落ち着いている。それで?」

「どんなに頑張っても那夜(なよ)は魔素の塊だ」

「知っているわ」


 私はこの世界、元素の存在しなかった世界の住民。当然その身体は魔素で構成されている。


「魔素はどんな元素の振りも出来る。前に教えたな」

「覚えているわ」


 この世界でも火を燃やすには酸素が必要。でも酸素は存在しない。全てが魔素だから。だから魔素が酸素の振りをして、炭素の振りをした魔素と化学反応を起こす振りをして結びつき、二酸化炭素の振りをする魔素になる。そうして発生する熱エネルギーでさえ魔素が代行している始末。

 まるで化学世界を魔素単独で模倣しているかのような世界だ。

 しかし、あくまで模倣であって魔素は魔素。元素ではない。その模倣の範囲から逸脱して成り代わろうとした魔素が毒素だと父さんに教わった。

 つまりモノマネ芸人が「私がオリジナルだ」と言ってしまったようなものらしい。


「今から那夜(なよ)の身体を構成している魔素に元素の振りをしてもらう」

「どういうこと?」

「魔素は何処まで行っても魔素だ。元素と交わることは出来ない。そうだな……他国の金はそのままだと使えないから自国の金に両替する。その逆も然り。そういうことができる身体に作り替えるってことだ」


 それが魔素に元素の振りをしてもらうってことなの?


「そんなことして大丈夫なの?」

「ああ、死にはしない。元に戻るのも簡単だ」

「そう」


 身体を作り替えるのに、簡単に戻れるものなの?


「これを飲むんだ」


 白い丸薬? かなり複雑な魔法陣が組まれているみたいね。

 これを飲む?

次回、呼吸の仕方

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