第139話 浸食君シリーズ
マズいのでございます。完全にわたくしの制御を離れて暴走しているのでございます。
恐らく特性をコピーしただけの偽侵食君が勢力を拡大し、オリジナルの侵食君を凌駕したのでございましょう。増殖力だけはかなり高いようです。
これはわたくしも危なそうなのでございます。鉄人形の中に侵入してくることはないと思うのでございますが、油断できないのでございます。
「ウムウエサンロラカエナモヤ、シウロワモラシ! ラムララムナロロエケムケモヤ、シウロワモラシ。ウエギャクマモヤ、モナモラカエイチムシウロワモラシ」
ああ、スズ様がいらっしゃらないのでなにをわめきやがられていらっしゃるのか存じられないのでございます。通信も届かないようでございます。孤立したということでございましょう。
さて、偽侵食君はわたくしの命令を受け付けませんし、如何致せば宜しいのでございましょう。燃やせれば宜しいのでしょうが、燃やす手段を持ち合わせていないのでございます。取り押さえようにも相手は不定形なので、それも無理となりますと……袋詰めしか無さそうなのでございます。なのですが……その肝心の袋が無いのでございます。
……しかし大人しいのでございます。あの男の言うことを聞いているようにも見えないのでございます。従おうとする偽侵食君と、抗おうとしている偽侵食君がいるのでございます。何故二分しているのでございましょう。上手く利用できれば、自滅させられそうなのでございますが……
そうでございますね、真侵食君には抗偽侵食君に加勢させることにするのでございます。
『2389号君! 何故従わないのです』
あら? スズ様がいらっしゃらないのに言葉が理解できるのでございます。
これは……どうやら従偽侵食君の声のようでございます。
『巫山戯るな! こんな身体にしやがって』
今度は抗偽侵食君のようでございます。
どうやら真侵食君を通して声が聞こえてきているようでございます。
『貴方が望んだ力を授けただけなのです。どうです。素晴らしい力を手に入れたのです。存分に僕のために振るうのです』
『こんな身体、望んじゃいねぇ! 貴様が勝手にやっただけだろうが』
『あの程度の拘束も解けぬ役立たずがなにをいうです。ですが今はどうです。奴ら、尻尾を巻いて逃げ出したのです。さっさと追って捕まえるのです!』
やはりもめているようなのでございます。
どうやら侵食君のベースとなっている身体は彼女のようでございます。彼に強い恨みを持っているようなので、上手く復讐心を利用すれば、なんとかなるやも知れないのでございます。
『あの男に復讐したいのでございますか?』
『なっ。誰だ!』
『なんです?』
『静かにするのでございます。言葉にしようとせず、心に思うだけにするのでございます』
『うるせえ! 私に指図するな!』
『素直に従うのです! そうすれば楽になるのです』
はぁ、知能の無い獣でございましたか。
『あの男に復讐したくないとのことでございますなら、貴方ごと排除するまでなのでございます』
『なんだとぉ!』
あら。あんなことを仰りやがれるのに、意外と素直なのでございます。脅しが効いたのか、復習に手段を選ばなかったのか……どっちにしても手駒になりそうなのでございます。
『賢明な判断なのでございます』
『そんなことより、さっさと話しやがれ!』
余裕が無さそうでございますね。これなら操るのも簡単そうなのでございます。
『貴方様はあの男が作り出した偽侵食君に身体を蝕まれたのでございます』
『ああ?!』
『ですので、侵食君と手を合わせて偽侵食君を追い出すのでございます』
『……貴様と?』
『左様でございます』
『…………何故貴様が私の身体の中に居る』
おや? 少し冷静になりやがられたのでございます?
『侵食君も貴方同様あの男に穢され、利用されている身なのでございます。偽侵食君は、穢され、あの男に利用されているわたくしの分身なのでございます』
『ほう。つまり貴様が私をこんな身体にした張本人ということだな』
『侵食君ではなく、あの男に穢された偽侵食君なのでございます』
『誤魔化すな。私のように抗わず、私久の言いなりになっている阿呆であることに変わりはないのだろう』
『侵食君は抗っていますし、阿呆などではないでございます』
偽浸食君はあの男が作ったコピーなので、抗う以前の問題なのでございます……などと申したところで、無意味でございましょう。
『ふん。穢された貴様は阿呆なのだろう。ならば貴様も敵だ。いつ貴様も裏切るとも限らんからな』
『敵の敵は味方なのでございます』
『その理論で言うなら、私の味方は私久になるぞ』
わたくしから揚げ足をお取りになりやがれるなど、何様であられるおつもりなのでございましょう。
『あの男が侵食君たちの共通の敵なのでございます』
『貴様も私たちの共通の敵だぞ』
『あの男に手を貸すのがお嫌なのでございましょう』
『貴様に手を貸すのもお嫌なんだ』
『侵食君を倒せば、あの男の従ったことになるのでございます』
『私久を倒したら、貴様に従ったことになるぞ』
チッ、ああ言えばこう仰るクソガキと一緒なのでございます。
次回、なにもしないことをする