第135話 脱出困難
〝貴方には渡さない〟? 確かにそう言ったわよね。どういうことかしら。
『お義姉ちゃん、この人とモナカの関係ってなんだろう』
『誘拐犯と被害者です』
『真面目に考えてっ!』
『大真面目ですよ。マスターを取り返しましょう。他の事なんてどうでもいいじゃないですか』
『それはそうなんだけど……モナカは食べられていなかったって事なんだよ』
『だからなんですかっ。マスターが被害に遭われていることに違いないんだからっ。ほら、誘拐犯が逃げようとしていますよ』
「あっ、待ってよ。モナカを何処へ連れて行くの?」
「邪魔よ」
「きゃあ!」
「時子!」
「あっ」
凄い力で肩を押されたから尻餅をついてしまった。痛たたたた。
「怪我はありませんか」
「え、ええ」
肩とお尻がちょっと痛いけど、他は何処にもぶつけてはいない。
「ならさっさと立ち上がってマスターを奪還しなさいっ!」
もー、お義姉ちゃんったら。
あれ? 突き飛ばした本人が一番安堵した顔をしているわ。
あ、目が合ったら顔を逸らされてしまった。
「2号君、なにをやってるです! さっさと4号君を捕まえるのです!」
言われなくても捕まえるわよ。私のためにね!
「待ってよ。あの私久さんから逃げるのなら、一緒に逃げましょう」
「時子?! なにを言ってるんですかっ。そいつも敵ですよ」
「お義姉ちゃんは黙ってて。ね? そうしない?」
「…………」
「無言は肯定ってことでいいのよね。さ、行きましょう」
「時子っ!」
「……勝手にしなさい」
「あっ待ってよ」
「うぐぐぐぐ! どいつもこいつも使えないのです! 2389号君! 3人を捕まえるのです!」
2389号君?! もうそんなに増えたの?
「2389号君! なにを呆けてるのです! さっさと動くのですっ」
〝兄様っ!〟
「ナームコさん?!」
よね。
ナームコさんの顔をした鉄人形が扉を派手に壊して沢山流れ込んできた。部屋に入りきれず、廊下にも一杯居るから何体居るのか全然分からないわ。
入ってきた大型の鉄人形がナームコさん? で、小ぶりな方が鈴ね。小ぶりといっても私より大きいんだけど。
……後ろの鉄人形が担いでいる袋はなに?
デイビーさんは……後ろにいる鉄人形のどれかに乗っているのかしら。
「チッ」
「誰なのです!」
〝貴様! 兄様を何処へ連れて行きやがれるのでございますか〟
「こんな囮、予定外ね。岩石衛星」
えっ、魔法?!
鈴くらいの大きさの岩が幾つも彼女の周りをクルクル回っている。
「……死にたくなかったら遅れないことね」
「えっ」
そして彼女の側にいた私は、その回っている岩の内側に居る。
つまり……遅れたらその岩に当たるってこと?! 安全なようで一番危険じゃない!
〝兄様っ!〟
岩に邪魔されてナームコさんが近づけないわ。
彼女はただ歩いているだけなのに、岩が群がる鉄人形を薙ぎ倒している。
というかナームコさん、私もここに居るんだから手加減して欲しいわ。
〝ぐぬぬぬ、拉致が開かないのでございますっ。ドリルハンド!〟
あ、腕がドリルになった。これなら岩だって一溜まりも……なかったのはドリルの方なの?! なんて硬い岩なんだろう。
これ、私が当たったら怪我どころか……ううっ、背中に冷や汗が。か、考えないようにしましょう。
彼女の手を掴んで離れないようにしないと。
「なっ、離しなさいっ」
「嫌よ」
まだ死にたくないもの。
「ならいつもどおりモナカと繋ぎなさいよっ」
「う、うん。そうする」
……あれ? 私、いつも手を繋いでいること話したっけ。
〝逃がさないのでございますっ。お量さん! あの岩をなんとかするのでございますっ〟
うわっ、後ろに居た沢山の鉄人形が突っ込んできたわ。でも回っている岩が全部防いでいて鉄人形たちはそれ以上近づけないみたい。
でもそれで動けないのはこっちも一緒みたい。
それに扉が鉄人形で埋まっていて通れないわ。
「ナームコさん、この人は敵じゃないわ。止めて!」
ダメだ。岩と鉄人形がぶつかる音でかき消されて全然聞こえないみたい。
「時子さん、この距離なら身分証の近距離通信が機能しますから、秘匿通信が使えますよ」
「あ、そっか」
お義姉ちゃん、少し冷静になれたのかな。口調もアイコンも元通りになっている。
『ナームコさん、この人は敵じゃないわ。攻撃を止めて一緒に脱出しましょう』
『いいえ、兄様を誘拐する極悪犯の2人組なのでございますっ』
『2人組? ……1人は私だよっ!』
『諸共死ぬのでございますっ!』
『モナカまで死んじゃうよっ!』
『ならば人質を……兄様を解放するのでございます』
『だから一緒に……もーっ』
お義姉ちゃんの次はナームコさんなの?! ……それはいつものことよね。
こうなると頭が痛いわ。どうしましょう。
この人も進めずに立ち往生しているみたいだし。
次回、不死身の心配は要らない