第130話 スマホのお陰?
待つのはもう終わりだ。モナカ、今行くからね。
あの建物に戻るにはこの服だと目立って仕方がない。だから白衣姿の研究員に衣装替えしている。
精霊界を通って侵入すれば簡単なんだろうけど、これ以上時間を無駄に出来ない。
「正面から行くわよ」
「それではモードチェンジした意味がありません」
「時間が無いの。なんとかして」
「……はぁ。なにか策があるのかと思えば……」
「なに?」
「なんでもありません。身分証を偽装します。少々待って――」
「待っている暇なんて無いわ。どうせ一時的なもの。直ぐバレなきゃそれでいいの」
「分かりました。では行きましょう」
「ええ」
一度は逃げ出した技術開発局に戻ってきた。公園からそう遠くはなかった。そういう公園を選んでくれたのかな。
「マスターが移送された形跡はありません。まだここに居るはずです」
「分かったわ。にしてもなんか騒がしいわね」
「侵入者が多数居るようです」
「多数?! エイルさんの他にも居るの?」
「分かりません」
「でもそれならバレても紛れられるわね。行くよ」
「はい」
侵入者が大勢居る? どういうことかしら。とにかく、そういうことなら便乗してしまいましょう。
この格好なら目立たない…………のかな。白衣の裾は長いのに、スカートの丈が短いのは何故かしら。
ゲートまでバレずに? 来たけど、ここも騒がしいわね。誰も私なんて気にも留めていない感じだわ。なら堂々と通り抜けましょう。
でもちょっとだけドキドキするわ。
………………なにも……起こらない?
ゲートも開かないわね。くぐって入っても……いいよね。
それにしても慌ただしくしているわね。警報は鳴りっぱなしだし。
あれ?! あそこで捕まえているのって、同じ服を着た警備員? 警備員が警備員を捕まえているの?!
「どうなっているの?」
「分かりません。もしかしたらエイルさんの仕業かも知れません」
「とにかく、道案内して」
「はい。表示します」
矢印で示されたとおり、表玄関を迂回して裏手の駐車場へ向かう。そして前回連れてこられたときに通った扉から中へ入る。
中に入っても通路に矢印が表示されていて、凄くわかりやすい。
外と変わらず案内できるんだ。携帯の地図サービスとは大違いね。さすが携帯だわ。
※携帯ではなくタイムのお陰です。
これならみんなが携帯に乗り換えるのも分かるわ。
※乗り換えてもタイムは付いてきません。
矢印のとおりに通路を走る。階段を駆け下りる。其処彼処で警備員が警備員を捕まえているわ。一体なにが起きているの。
でも今はモナカを助けることが先よ。確かこの扉の先だったわね。一度は逃げ出した場所。
結局なんの対策もしてこなかったけど、大丈夫かな。ううん、今更怖じ気づいてどうするの! 開けるわよ。
「あれ? 開かない?」
「携帯を扉にかざして下さい。ああ、そっちじゃなくてここで買ったヤツです」
「こっち?」
「私たちはセンサー類に反応しません。ですからこれを使って色々やるしかないんですよ」
「よく分かんないけど、分かった。何処に?」
「何処でも構いません」
「これでいい?」
「…………」
「どうしたの?」
「この鍵を仕掛けたのはエイルさんです」
「えっ、分かるの?」
「はい。この先にエイルさんも居ます」
「〝も〟?」
「はい。今開けますね」
「うん」
エイルさんが?
もうモナカのところに辿り着いていたのね。
お義姉ちゃんの言ってたとおりだ。
………………?
「どうしたの? 開かないの?」
「すみません。少し手こずってます」
「そうなの?」
「所詮、私は劣化コピーなので……」
「なんでそんなこと言うの!」
「事実ですから。ふう、やっと開きました」
なんでそんな風に自分を蔑むのかな。
私には違いなんて分からないよ。
次回、ふたりはヌトヌト合体