第128話 子を生す絶好の機会
「モナカ!」
扉が開いた瞬間、叫んでいた。返事は無い。
何処? 何処に居るの? あっ、部屋の隅に居たわ!
「モナカ! 大丈夫?」
駆け寄って抱き上げたけど、反応が無い。首が力なく倒れたままだ。手足もダラリとしている。
「う……ああ……」
「モナカ? なに? なにが言いたいの?」
「ああう……あ…………」
目の焦点が定まっていないわ。意識はあるみたいだけど、私の声が届いているか怪しいわ。
とりあえず、邪魔が入っても面白くないから囮が来るまで扉の鍵は閉めておきましょう。
バッテリーは大丈夫かしら。残量が分かればいいんだけど。
私でもタイムが居ないとRATSに干渉できないのよね。
この携帯みたいにこの子をモナカに上書きできれば……
ダメよ。そんなことをしたらタイムが……
でも今のままでもモナカはこのままだ。タイムだって、自分よりモナカを優先するはず。だったら……いっそのこと…………
「お姉様?」
「あ……なんでもないわ」
分かっているわ。
「状態は? CPUが止まっているだけ?」
「そうですね。独立してるところは動いているようです。通信は出来てますが、返信がありません。当たり前ですが、受信していても処理はされていないようです。あ、バッファが溢れてしまったようです」
「そう。分かったわ」
直接見るしかなさそうね。
「ちょっと潜ってくるわ。なにかあったら呼んでちょうだい」
「はい、分かりました」
ああそうか。
魔力干渉を受け付けないから潜れないわ。
んー、仕方ないわね。
直接繋がりましょう。
「お姉様?」
「直結するだけよ。邪魔しないで」
「あ……はい」
機械同士ならケーブルでつながれるんだけど、人間同士だとそうもいかないわ。だからやるのは皮膚接触……より確実な粘膜接触。これは決してキスなんかじゃないわ。
でも、思ったより不安定ね。一応覗き見ることが出来るけど、ノイズが酷いわ。エラー訂正が効かないところが多い。
より確実に……唇だけじゃなく……
「お姉様?!」
よし、今度はしっかり繋がったわ。舌を絡めた甲斐があるってものよ。決してディープキスなんかじゃないんだから。
モナカ……口の中がカラカラだわ。水も飲ませてもらえなかったのかしら。それとも唾液の分泌が出来なかった?
いいわ。私が……潤してあげる。
これは救命行為よ。決して興味本位とか、行為とか、そんなんじゃ……
確か次元収納に水筒があったわね。えーと……あった。
直接飲ませても、どうせ飲めないんでしょ。大サービスで私が飲ませてあげるわ。
水筒の水を口に含み、モナカの口の中に流し込む。
…………もしかして飲み込めないの?
気管に入ったら大変ね。カテーテルで流し込むしかないのかしら。
じゃなくて! 意識を取り戻させた方が早いのよ。そのために粘膜接触をしたんでしょ! 冷静になれ、私!
鼻から息を吸い込んで目一杯肺を膨らませて、ゆっくりと息を吐き出す。
よし、もう一度粘膜接触するわよ。モナカ……嫌かも知れないけど、我慢してね。
唇を重ね合わせ、その奥へと舌を滑り込ませる。
冷たい。
服に手を潜り込ませ、身体に直接触れてみる。やっぱり冷たい。
モナカの体温が下がっているんだわ。体温調整もうまく出来ていないのね。どうして気づかなかったんだろう。
「お姉様! なにをなさるつもりですかっ」
肌と肌を合わせれば、暖まるわよね。
肌と肌……うう……
こらエイル! なに今更恥ずかしがっているの!
散々シャワーで見て触ってきたでしょ! 見られて触られてきたでしょ!
でも、それはあくまでエイルの話。那夜の身体じゃ……乙女か私は!
もういい年のオバさんなのよ。相手は子供。気にする事じゃ……ないっ。
「お姉様っ!」
モナカの服を脱がせ、私も服を脱ぐ。
最後に見て触ったのは毒に順応した村だったわね。大分さわり心地が違うわ。筋肉量が違うのね。本当に見ないうちにたくましくなったわね。
腕も、身体も、足も……ああ、ここは子供のまま、初めて見たときと変わっていないのね。少しホッとした。
……私、何処を見てホッとしているのよっ。
モナカ……こんなに冷たくなって……
ほら、私の身体……暖かいでしょ。
〝モナカくんと子を生すことも出来るだろう〟
?! なんで今父さんの言葉を思い出したのよ。
モナカと? 子を……生す?
「お姉様」
私が? 子供を?
ダメよ。相手の意思を確認しないと……
私の意思は……確認しないの?
「お姉様っ」
だって、モナカは検体で……別にそういう対象じゃ……
検体から子種を取り出して着床させるだけ?
今なら直接子宮内で受精させることも……
……な、なに、この心臓の高鳴りは。
不整脈かしら。
「お姉様!」
そんなこと、構っていられないわ。
体調不良より、今のチャンスを逃す手は……
直接……体内で……射精させれば…………
次回、死んでる? 死んでない?