第124話 命令する者
そういえば、前世では私も魔科学法を使っていたわね。
今も使えるかしら。
「ん? あ……あなあなななあななた、貴方! 何故に、何故ぜなな何故にそれをももももっも持ってって持っているいるののです!」
「え? なんの話? ああ、もしかしてこれ? |MC-DCコンバーター《魔力-電力変換器》なら貴方の弟さんが快く渡してくれたわ」
「違うのです違うので……なんです?!」
「だから、貴方の弟さんに貰ったって言ったのよ」
「どういうことです! 何故アレがそれを持っていたのです!」
実の弟をアレ呼ばわり? 仲が悪いのかしら。
「私が知るわけないでしょ。貴方……頭が足りていないわよ」
「僕が、ぼぼぼほっぼ僕がささがっしがさ探していると、あああああれほど言ってっていてたのにのににのに、どどどうどゆうどことなんでですです!」
「だから知らないわよ」
「違うのです! 貴方……何故その腕時計を持っているのです?」
なに? さっきまであんなに慌てていたのに、発作が治まったかのように平然としているわ。変な奴。
でも、腕時計? 携帯のことよね。
「何度も同じ事を言わせないで。貴方の妹に貰ったのよ」
「貰ったのたです! 有ーりー得ーなーいー有り得ないのです! それは可愛い可愛い従順な知夏が僕のために作っていたのです!」
知夏? 妹さんの名前かしら。
「貴方などに渡すわけがないのです。貴方……知夏から奪ったのです」
「安心して。これは試作品よ。そのうち完成品が貰えるわ」
「試作です? それも有り得ないのです」
「あら、いきなり完成品なんか作れるわけないでしょ。試作して欠陥を洗い出し、それから製品を作るのが普通よ」
「そんな凡人の作り方、知夏はしないのです」
それが本当ならあの無駄だらけのソフトウェアで納品するつもりだったのかしら。取引先にはなり得ないわ。
ハードウェアだけは褒めてあげる。こうやって安全マージンをしっかり取れば、なんの問題もないわ。
「返すのです」
「これはもう私の物よ。他の人には使えないの」
「そんな物、僕に掛かれば簡単なのです」
「へぇー。ならお手並み拝見としましょう」
「割り込ませてもらいますよ。[例外処理]」
割り込み?!
「[|例外復帰《リターン フロム エグゼンプション》]」
「ふあふあふあ。さすがなのです」
「まさかこれで終わりなのかしら」
「まさか、まさかまさかまさかです」
「もしかして同じような手でモナカを止めたのかしら」
「モナカです?」
「その指の持ち主よ」
「僕は私久伊地なのです」
「あーもう! その指がくっ付いていた者の事よ」
「〝者〟です?」
なにをそんな意味が分からないといった顔をして首を傾げているの?
「モナカは、指が付いていた者は人間よ」
「ああ、1号君のことです? アンドロイドは人間ではないのです。そんなことも知らないのです? 貴方……やはり頭が足りてないのです」
「恒星間条約を忘れたとか言わないでしょうね」
確か締結は星が半分入れ替わる前だったはず。知らないわけがない。
「恒星間条約です? ああ、アレのことです? ふあふあふあふあふあふあ」
「なにが可笑しい」
「そんなカビの生えた物が未だに有効だと思うのです?」
「なに?」
「貴方……頭が足りないのではなく、無いのです。相手が居なければ条約など無意味なのです。5千年前に廃止されているのです。貴方……不勉強なのです。教科書の1行も覚えてないのです。やはり頭が足りないのではなく、持ち合わせてないのです」
相手……確かにこっちの世界に締結相手なんて1カ星も居ないのは確かだ。
だからといって廃止? 短絡的すぎるわ。
「そんなことはどうでもいいのよ。質問に答えなさい」
「ふあっ、簡単に動きを止めたのです」
この程度の攻撃も止められなかったの?
タイムはなにしていたのよ。対策くらいしておきなさい。
……って私も人のことは言えないか。
私久がそんなことしてくるとは思わなかったわ。こいつ、魔科学法でも、機械言霊使いだったのね。
「貴方は……いえ、携帯は耐えられるです? [初期化]」
「[権限無効化]。ふふっ、これで貴方はなにも出来なくなったわ」
「ふあふあふあふあふあ。権限など必要ないのです」
「なに?」
「[工場出荷状態化]」
「きゃああ!」
「ルッ……[復元]」
「ふあふあふあふあふあ。貴方……中々面白いです」
「お前ぇぇぇっ! いい加減[黙れ]!」
「んん! んっんっんっんっ、んんんん」
「いやあ! お姉さ――」
今度はなに?!
次回、電脳戦