第123話 1つでは無い
モナカがここに居る。そして今バラバラにされようとしている。そんなこと、させるもんですか。
やっていいのはこの私だけよ!
「この扉の向こうです」
「分かっているわ。開けてちょうだい」
「はい、開けます」
扉が開くと私久……と女? が居た。
モナカは……? 居ないわね。
「モナカは何処?」
「あ? 誰だお前は。いきなりなんだ」
「あんたに用は無いの。モナカは……ここに連れ込まれた男は何処?」
「知るか。ってか手前が政治家秘書とかいう侵入者だな」
「五月蠅い女ね。邪魔よ。おい私久、モナカを何処へやったのよ!」
「無視するんじゃねえ!」
いきなり殴りかかってくるなんて野蛮ね。こんなもの、[身体強化]すれば片手で簡単に払えるわ。
「なっ! っふふふふ、面白ぇじゃねぇか。おらおらおらおら! いつまで持つかな? ああっ!」
はぁ、鬱陶しい。こんな遅い拳、子供でも避けられるわよ。手で払うのも面倒くさい。
「うおおおおおおおっ!」
「はぁ、邪魔よ。[火球]」
「うがっ。あっちちちっ、な、なんだ今のは。一体なにをした!」
「五月蠅いわね。ただの[火球]よ」
「あっつぁ! くそっ、何処に武器を隠してやがる!」
「っははははは。武器? 貴方、魔科学都市に住んでいる癖に魔法も知らないの?」
「魔法? 魔法だと!」
「五月蠅い、[沈黙]!」
「ん! んん?! んんんんーん」
これでもまだ五月蠅いわね。
「んんー!」
「まだ抵抗する気? 幾ら殴りかかってきても無駄よ。貴方程度の実力じゃ、私に指一本触れられないわ」
「んー、んんんんー!」
無駄な抵抗をいつまで続けるのかしら。
いい加減にして。
「[蔦絡み!]」
「んん?! んーっっ」
漸く大人しくなったわね。これで余計な邪魔は入らないわ。
でもこれだけ後ろで騒いだというのに、全くの無関心で作業を続けている。その集中力は褒めてあげましょう。
「私久」
「………………」
「私久!」
「なんです」
漸く手を止め、私の方に振り向いた。間違いない。あいつだ。
「誰です?」
「ご挨拶ね。さっきぶりじゃない。もう忘れたの?」
「なんの話です? 僕はお前なんて知らないのです」
「あら。女から物を貰っておいて忘れるなんて、男として最低じゃないかしら」
「ですからなんの話です? 僕は知らないのです」
「シラを切る気?」
「ふむ。ああ、分かったのです。貴方、人違いをしているのです」
「は? あんた私久でしょ」
あんたみたいな顔の持ち主、この世に2人も居るわけ……居たわね。
「貴方が会ったのは、僕の弟なのです」
「弟?」
「そうです」
「妹じゃなくて?」
「ああ、妹にも会ったです? 僕たちは3人兄妹なのです」
こんな顔の奴が3人も居るっていうの?! なんて残酷な世界なのかしら。
まさか両親もなんて……言わないわよね。
「なので、貴方の勘違いなのです。貴方……頭が足りないのです」
「そんなことはどうでもいいのよ。モナカは何処!」
「モナカです? なんの話です?」
「ここに連れ込まれた男の事よっ!」
「連れ込まれた男です? そこの者はそんな見た目でも女なのです」
「んー、んんーんんんんんーん!」
「こいつじゃないわ」
「では、知らないのです」
「惚けないで! ちょっと、ここにモナカか居るのよね。居ないじゃない。どういうこと!」
「すみません。モナカさんの反応が2つありました」
「2つ?!」
「私の選択ミスです。もうひとつはこの奥にあります」
「待って。2つってどういうこと?」
「反応の強さは同等ですが、こちらの方が小さいようです」
「小さい?」
「その男の前にある小さな塊がそうです」
「男の……前にある……」
あの小さい物が……モナカ?
「なんの話です? ああ、もしかしてサンプルの話です?」
「サンプル?」
「1号君からサンプルを採取したのです」
「サンプル……」
あれって……指? 右手小指かっ!
「おい私久。その小指の持ち主……返してもらうわよ」
「なんの話です? 僕は誰の物でも無いのです。返す先など無いのです」
「はあ? 私はその小指の持ち主の話をしているの」
「ですから、それは僕です。貴方……頭足りてないのです」
「巫山戯るなっ! その指はモナカのでしょ。ならその指も、モナカも、全部私の物よっ。お前の物なんかじゃないっ!」
「貴方……足りないのではなくおかしいのです。これは僕が採取した物なのです。決して貴方の物などでは――」
「モナカの物は私の物よっ! 頭の先からつま先まで、誰にも渡さないわっ。返しなさい。いいえ、お前の意思なんか関係ない。持って帰るわ」
「はぁ。貴方……話が通じないタイプの人なのです」
「お前に言われたくないっ! [少し黙ってろ]っ!」
「ん、んん? ん…………貴方……魔法が使えるのです?」
「なっ……」
そんなバカな。魔法が不完全だった?
携帯は……問題なく稼働している。あの子が描いた魔法陣も魔法文字も完璧だったわ。
ということは。
「貴方も魔法使いなの?」
「違うのです。僕に使えるのは魔科学法だけなのです。その違い、貴方なら理解できるのです」
魔科学法……ね。そういうことか。
確かに私が使っているのは魔学法だ。魔法杖代わりに携帯を使ってはいるけど、それでも魔学に則った純粋な魔法だ。それも限りなく無詠唱に近い詠唱魔法。
それに対しこいつが使っているのは魔科学法。つまりあくまで物理限界を突破することを目的とした魔科学に則った魔法だ。
といっても、端から見たら違いなんて有って無いような物。本人たち以外にはどうでもいい話。
でも、違いは大きい。
魔科学法は火の無いところに煙は立たないけど、魔学法は火の無いところでも煙が立つのよ。
こいつ、分かっていて話したのか?
魔科学法なんて所詮物理法則ありきのもの。魔学法の足下にも及ばない。
種が割れれば対策なんて簡単よ。
次回、本戦