第122話 おかしな侵入者
どうなっていやがる。侵入者の反応がいきなり増えやがった。守備隊はなにをやっているんだ。
私が留守にした途端これだ。しごきが足りなかったようだな。ふふふふ、この下らん任務が終わったら、たっぷりしごいてやるぞ。
ああ、幾らしごかれて興奮したからといって汚い汚物を私にぶっ掛けるような真似はしないでくれよ。私には愛しい旦那様が居るんだからな。っははははははは!
「騒がしいのです。一体なにがあったのです」
「侵入者が居るみたいだぞ」
「そうなのです? 貴方は行かなくていいのです?」
「はっ、私はお前の警護があるからな。いいのか? 侵入者にそのオモチャが奪われても」
「よくないのです。これが目的です?」
「さあな。可能性はあるんじゃないか?」
「貴方、僕を守るのです」
「だからここに居るんだろうが」
「ああ、そうです。今度はキチンと守るのです」
「はいはい。守る価値があるとは思えんが、仕事だからな。守ってやる」
殺しても死なないヤツなんか守ってもつまんねぇけどよ。
……死ぬまで殺してみるか? なんてな。っははははは。
「なんです?」
「なんでもねぇよ。お前はそのオモチャで大人しく遊んでろ」
「オモチャではないのです。1号君なのです」
「何号でも構わねぇよ」
「構うのです。2号君も3号君も居なくなったのは貴方の責任なのです」
「ケッ。冗談言ってんじゃねぇよ。死にてぇのか」
「ふあふあふあふあ。僕を殺すです? 貴方に出来るのです? 護衛の貴方に……です」
「チッ。いいから遊んでろ」
「遊んでなど――」
「分かったから黙れ」
「…………1号君のように従順ならよかったです。そうそう、待たせてしまったです。1号君、退屈していなかったです?」
クソッ、なんでこんなヤツの護衛なんかやらなきゃなんねぇんだ。要らねぇだろぅがよ。あっちの方が面白そうなのによ。はぁぁ、貧乏くじだぜ。
せめて侵入者の目的がこのオモチャであることを願おうじゃないか。なぁおい。そうだろ?
ん? 五月蠅ぇな。ああ、内線が鳴ってんのか。
…………こいつ、出ねぇつもりか。
「おい、内線が鳴ってんぞ」
「早く出るのです」
「はあ?!」
「貴方が出るのです。僕は忙しいのです。見て分からないのです?」
チッ、めんっっっっっどくせぇ!
「なんのようだ!」
〝ひっ! あ、機重力室長! 大変です〟
「あ? 侵入者どものことか? さっさと処分しろ。ああ、殺すなよ。一応生かしておけ。多少の怪我は不問にする。生きてさえいればな。だからといって、血の池を作るなよ。清掃班が可哀想だからな。っははははは」
〝その心配はありません。侵入者は恐らく3名しかおりませんので〟
「はあ?! てめぇの目は節穴か。マークが幾つあると思ってんだ」
〝それは侵入者ではありません〟
「あ?」
〝我々守備隊の隊員です。本当の侵入者はシステムが認識しておりません〟
「なんだそりゃ。ぶっ壊れたってのか」
〝だと思われます〟
〝思われます〟だあ?
システムに頼り切りやがって……やはりしごきが足りなかったようだ。
そんな言葉が出てこなくなるまでしごいて、しごきまくって、干からびてもしごき続けてやらねぇとな。
「本当の侵入者とやらが実在するなら、まず誤認されてる隊員を片っ端から捕まえて1カ所に纏めておけ。それから本当の侵入者を捕まえろ。いいな」
〝はっ〟
「それで、その本当の侵入者とやらは分かってんだろうな」
〝それが……その〟
「分かってねぇのか!」
〝いえ! 映像は残っています。ですが……〟
「あ? 残ってんならその映像を寄越せ」
〝はっ。こちらです〟
ったく。なんだってんだ。
ん?
「おい、なんだこれは。人間じゃねぇのかよ」
見たこともねぇ……いや、子供の頃図鑑で見たか? とにかく毛むくじゃらの知らねぇ生き物だ。
〝はっ。恐らく犬だと思われます〟
「犬?!」
ああ、思い出したぞ。愛玩動物とかいったか? 昔は人間と一緒に住んでたらしいな。だが実物は図鑑と違うじゃねぇか。
「犬ってのは立って歩くのか」
人間と一緒に住んでたんだから、当たり前か。
〝分かりません。図鑑では赤子のように四つん這いで歩いていたと記憶しております〟
ふむ、私の記憶もそうだと言っている。
「んなこたどうでもいいんだよ。こんな目立つ格好してんなら、捕まえるのは簡単だよな! なにやってやがる!」
〝いえ、侵入者と思われる者と遭遇した者の話では、人間だったとのことです〟
「はあ?! ならこの映像は無関係なのかよ」
〝恐らく侵入者と思われる者によって改竄された物かと……〟
「改竄?! チッ、所詮機械かよ。侵入者の特徴とか無ぇのか?」
〝はっ、男1人、女2人の3人組で、資源回収業者のようです〟
「資源回収業者? がなんの用だってんだ」
〝それが……身分証を確認した者の話だと、政治家秘書とその付き添いだということでして……〟
「話が見えないぞ。それ、同一人物なのか」
〝はっ、そう報告を受けています〟
「現在地は把握してるのか?」
〝それが……混乱に乗じて見失ってしまいました〟
「馬鹿野郎! 政治家様に何かあったら物理的に首が飛ぶぞ。さっさと探して来いっ」
〝はっ!〟
チッ、政治家相手じゃ手出しが出来ねぇじゃねぇか。
その付き添いというのが資源回収業者?
そんな奴らを連れてきて一体なにを……政治家か……
「なぁ私久」
「なんです? 僕は忙しいのです」
「どうやら本当に目的はそのオモチャみたいだぞ」
「なんです! 誰にも渡さないのです!」
「っはは、渡さなきゃ首が飛ぶかも知れねぇぞ」
「首ならいくらでも飛ばせばいいのです。ああ、貴方の首でも飛ばせば満足するのです?」
「お前と違って首が飛んだら終わりなんだよ」
「軟弱なのです」
「お前が異常なんだよ」
「失礼なヤツなのです」
ふっ、いい傾向だ。
政治家様の要求とこいつの警護、どっちの方が命令順位は高ぇんだろうな。ま、政治家様だろうけど。んなこた知らねぇよ。
護衛してやろうじゃないか。
たとえ政治家だろうが正式な書類が無きゃここじゃ無意味だぜってことをその身体に教えてやろうじゃないか。あったところで関係無ぇけどな。
ふふふふふ、面白くなってきたぜぇ。
政治家様よぅ、早く来てくれや。歓迎するぜぇ。
「っふふふふ、ふははははははは、あーっはははははははは!」
「五月蠅いです。静かにするです」
次回、前哨戦