第121話 隠し事
広い公園だわ。自然公園って感じね。森の中に作られたのか公園に植樹したのかは分からないけど、とにかくそんな感じね。
遊具は1カ所に纏まってて、全部木製みたい。お母さんが子供を連れて遊びに来ているわ。
藤棚? の下にはテーブルと椅子が並んでいる。
水場とトイレもあるわ。
遠くに見える建物は休憩所かしら。
後は遊歩道とその脇の所々に木製のベンチ。
あっ、池がある。鯉とか亀でも居るのかな。
池に架かった橋を渡って真ん中まで来た。欄干に寄りかかって池を眺める。
あは。やっぱり魚が居た。鯉……かな。なんか違うような気もするけど……餌とか売ってないかな。
亀は……あ、石の上で甲羅干ししているわ。
ふふっ、本当に日本に戻ってきたみたい。あの公園より立派なところだけど。
先輩と出会ったあの公園……モナカは覚えていないわよね。
はぁ。先輩がいつも言うような物的証拠はなにも無い。顔も声も全然違う。でも中身は先輩そのものだ。
だからお姉ちゃんたちは……そしてお義姉ちゃんも。
「時子さん、マズいことになったわ」
「えっ、どうかしたの?」
「ルイエさんが家出をしました」
「家出?!」
ってどういうこと?
「はい。恐らくエイルさんの身分証に気がついたのでしょう」
「え、それってつまり……」
「エイルさんが生きてここに居るということで間違いないでしょう」
「本当に?!」
「でなければルイエさんが家出する理由がありません」
「じゃあ……」
「ですが、エイルさんと連絡が付けられなくなりました。身分証の通信機能を停止させたのでしょう。現状トラップに引っかかってくれるのを待つしかありません」
「それってなにも変わっていないってこと?」
「そんなことはありません。エイルさんが生きているという情報が得られました。そして恐らく、エイルさんは単独でマスターを助けに向かっています」
「そうなの?」
「マスターが捕まっていることはルイエさんを通して知ったはずです。なのに時子さんに連絡を取ってこないということは……マスターを独り占めしようとしているに違いありませんっ!」
「えっ」
なんでそうなるの?!
「時子さん、こうなってはジッとしている場合ではありません」
「さっきと言っていることが真逆じゃないっ!」
「時子さんはマスターがエイルさんの手に渡ってもいいんですか!」
「えっ、なんで? 助けられるならエイルさんでもいいじゃない。そもそもエイルさんの協力が無ければ無理だって言ったのはお義姉ちゃんでしょ」
「なに言ってるんですかっ。そのままエイルさんの物になったらどうするんですかっ」
「ならないでしょ。だってモナカにはお姉ちゃんが付いているんだから」
「忘れたんですか? あっちにはルイエさんが居るんです。エイルさんがタイムを追い出してルイエさんを居座らせれば、マスターはエイルさんの魔の手に!!」
「そんなことしないでしょ」
お姉ちゃんを追い出すってなに。
家出とか追い出すとか、意味が分からないわ。
「いいえ、マスターを手に入れるためならそのくらいやりかねません。やれる技術もあります」
「そもそもルイエさんにお姉ちゃんの代わりなんて出来ないでしょ」
「そんなことありません。ルイエさんはマスターを制御することが出来ます。なにしろタイムの代わりが出来るように育てたのはタイム本人なんですから!」
「……ちょっと待って。〝代わり〟ってどういうこと?」
「……あ。いえ、なんでもありません」
お義姉ちゃんのアイコンが動揺している?
気のせい……じゃないよね。
「なんでもないってことは無いでしょ。モナカの制御云々はよく分からないけど、それをお姉ちゃんがやっていて、今はそれが出来ないからモナカも動けないんだよね」
「…………そうです」
「そのお姉ちゃんの代わりをルイエさんがすれば、モナカは今までどおり動けるようになるってことで合っている?」
「…………合っています」
「それが出来るように育てたのがお姉ちゃん?」
「…………はい」
「どうして出来るように育てたの?」
「………………」
答えないつもり?
「どうして出来るように育てたのか聞いているの!」
「…………か、考えすぎですよ。ルイエさんがアトモス号をまともに制御できるように育てた結果、たまたまマスターの制御も出来るくらいに育っただけですから……」
だったら最初からそう言えばいいじゃない。
でも本当は、モナカの制御が出来るように育てた結果、アトモス号も制御できるようになったんでしょ。
「誤魔化さないで」
「誤魔化してなんかいません。真実です」
いつものお義姉ちゃんに戻っている。
でもそんなことでもう誤魔化されたりしないよ。
「モナカの世話を焼くのが嫌になったの?」
「そんなことあり得ませんっ」
「ならなんでルイエさんに自分の代わりをさせようなんて思ったの?」
「そんなこと、思うわけないじゃないですか。万が一の時の保険です」
「保険ね」
たまたま育っただけじゃなかったの。
「どうしても話してくれないのね」
「話すもなにも、裏なんかありませんよ」
「そう。嘘吐き」
「嘘なんか……」
なに悲しそうな顔しているのよ。悲しいのは私の方よ。
どうして話してくれないの!
「もういい。とにかく、エイルさんと合流するわ。案内しなさい」
「ですからエイルさんと連絡が――」
「目的地は一緒なのよ。連絡なんて必要ないわ。そんなことも分からないの?」
「あう……」
お義姉ちゃんのバカ。絶対なにか隠している。
自分の代わりが出来るようにルイエさんを育てた?
有り得ないわ。
あのお姉ちゃんがモナカのことを他人任せにするなんて、絶対に無い。
だから有り得るとすれば、そうしなければならない、そうせざるを得ない自体が今後有るかも知れないということ。
それはつまり、お姉ちゃんが居なくなるってこと?
どうしてお姉ちゃんはそうなるって思ったの?
ただ単に可能性があるから保険のつもりで?
だとしても嘘を吐く理由にはならない。
エイルさんを止めなきゃ。
お姉ちゃんの代わりなんて誰にも出来ない。私にだって……出来ないんだから。
バカモナカ。
次回、違うそうじゃない