第118話 〝よく覚えておきなさい〟の真の意味
モナカをオモチャにしていいのは私だけよ。
私以外のヤツが色々やるなんて、絶対に許さないっ。
「あ、お姉様、居場所が分かったので行きましょう」
「そんなのとっくに分かっているわ。さっきまで居たんだから。あひゃひゃひゃひゃひゃ」
殺す。
「お姉様、落ち着いて」
「はっ、落ち着けですって? モナカがバラバラにされたのよ。見る影も無く無残な姿にされたのよ。同じ目に……いえ、それ以上の目に遭わせてやらなきゃ気が収まらないわ。ふひっふひひひひひひひひっ」
殺す。
「いえ、ですから落ち着いて下さい。そんな必要ないんですよ」
「なに言っているのよっ。私の、私の大切なモナカがグチャグチャにされたのよ! あはっ、皮を剥いで、目玉をくり抜いて。そうだわ。子孫が残せないように睾丸を握りつぶしてしまいましょう!」
殺す。
「そんな汚らしいことしないで下さいっ。いいですか、よく聞いて下さい。モナカさんは生きていますっ」
「ふひゃひゃひゃひゃ、知っているわよぉ。皮膚を剥がされ、臓器は剥き出し。ああ、頭骨も開けられて脳みそが丸見えだったわね。皮を被ってた陰茎も剥き出しになって、ある意味大人の仲間入りかしら。あーっひゃっひゃっひゃっひゃっ」
殺す。
「あ、いや。ですから――」
「私久っ! 苦しめずにひと思いに殺したのならいざ知らず、あんな姿で生かしていたぶって反応を楽しんでいやがるんだわ! それをしていいのは私だけよ。許せないっ!」
殺す。
「お姉様……ですから落ち着いて下さい! いいですか! モナカさんは五体満足……とは言えませんが、ちゃんと人型のまま生きていますっ」
「ええ。皮は剥がされていたけど、ちゃんと人型のまま生きていたわ」
殺す。
「ああ、もう……皮もちゃんと被ったまま生きていますっ!」
「……ふへ?」
殺……え?
「お姉様がなにを見たのかは分かりませんが、ちゃんと生きています」
「ど……どういうこと?」
生きている?
「どうもこうも……これが今のモナカさんの姿です」
「今の?」
浮かび上がったモナカの姿は、確かにモナカの姿だった。
男子三日会わざれば刮目して見よとは言うけど、やっぱり半年も経つと随分違うわね。大分逞しくなったようだけど、確かにモナカの姿をしているわ。
でも今はだらしなく床に伏せっている。寝ているわけではなさそうね。
糸の切れた人形みたいに横たわっている。死んでいると言われれば、そう見えなくもない。
それでも胸が微かに上下しているのが見えるから生きているのは確かだ。生きているだけ……かも知れないけれど。
タイム……貴方一体なにしているのよ。
「だから〝覚えておきなさい〟と言っただろう。研究所に戻ることになるのだから」
「え?」
まさか、〝覚えておきなさい〟って場所のこと?!
「紛らわしい言い方しないでよっ」
「最後まで聞かなかったのは那夜だもん。父さん悪くないもん」
こ……くっ……殺し……ダメよ。母さんに会わせるまで我慢よ。
「……なんか物騒なこと考えてないか?」
「き、気のせいよ。母さんに会わせるまでは……ね」
「母さんに会ったら気のせいじゃなくなるの?!」
「だったらアレはなんだったの?」
「那夜?!」
「な・ん・だ・っ・た・の!」
「うう……アレは奈慈美ちゃんが仕入れた方の〝面白い物〟だ」
「アレはあんな姿でも人でしょ」
「〝アレ〟はいいのか?」
「あ?」
「ひっ。那夜、あれは最近人としての存在を無くした〝物〟だ」
「最近?」
「気にする必要は無い。大体モナカ君ほどの〝面白い者〟の情報を、彼女が仕入れられるほど甘くはない」
「嘘よ! セキュリティがあんなにザルなのよ」
「そりゃ那夜にとってはザルだろうけど、ここの人たちにとっては破られることのない堅牢なセキュリティなんだぞ」
そんなはず……アレ? 右手に違和感があるわね。あっ! 小指が無くなっているじゃない。だから〝五体満足とは言えません〟って言っていたのね。
しかも新しめの傷だわ。ろくに治療の跡も見られないわね。
一体誰が……って、ひとりしか居ないか。私久のヤツ……五体満足でいられると思わないことね。
「酷い……」
「どうしますか」
「今すぐ行くわ」
「トキコさんとは?」
「今すぐって言ったのよ」
「……はい。ではルートを表示します」
「ありがとう……? 父さん」
「な、なにかな」
「〝覚えておきなさい〟って言っていた場所と違うじゃない」
「当たり前だ。間違えてここに戻って来ないように覚えておきなさいって言ったんだから」
こんのクソ親父!!
「……覚えておきなさい」
「な、なにをかな」
「…………」
「那、那夜?」
待っていなさい。今助けてあげるから。
「父さんはなにを覚えておけばいいのかな!」
次回、三大欲求の最後のひとつは満たされるのか