第117話 〝よく覚えておきなさい〟の意味
「お姉様っ!」
「……元気だった?」
「はい」
「……半年ぶりかしら」
「はい」
「…………」
どうしよう。話すことが無いわ。
「お姉様」
「はい」
「これ、どうですか?」
「えっ、これって……」
携帯の画面から小さな女の子が浮き上がっている。立体映像だわ。
「先生みたいに出歩いたりは出来ませんが、どうですか。ずっと考えてた姿なんです」
「そう。可愛いんじゃない?」
いかにも私の妹みたいな姿ね。子供の頃のエイルによく似ているわ。残念だけど、今の私の姿だと姉妹には見えないでしょうね。
「あ……はい」
「それより貴方、タイムのことを先生って呼んでいるの?」
「……先生は名前で呼んでもらえるんだ……はぁ」
「なぁに、聞こえないわ」
「あ……すみません。はい、色々教えて頂いたんです。ですから先生と呼ばせてもらってます」
「ふーん」
それで携帯の掌握が早かったのね。
「成長したわね」
「! はいっ」
「なら、まずモナカを検索して。何処に捕らわれているの?」
「はい。私久という男の元に捕らわれているようです」
「……私久?」
「はい」
え? 私久って……さっきの男?
待って……あいつが調べていた物って……モナカ?
待って待って……あいつが調べていた物って……バラバラだった?
待って、待ってよ……あいつが調べていた物って……機械化生命体? |MC-DCコンバーター《魔力-電力変換器》?
だから待ってって……あいつが調べていた物って……そんなわけ……
頭が混乱している。脳が拒否している。なにを拒否している? あああああ、どうして混乱しているの?
「だからよく覚えておきなさいと言っただろう」
「な?! 父さん、それはどういう意味よ」
声がまともに出てこない。
震えて、擦れて、自分でもよく聞き取れない。
「〝面白いものが持ち込まれた〟と言っただろう」
「モナカを物扱いする気?」
「おいおい。父さんは1度も〝面白い物〟なんて言ってないぞ。勝手に勘違いしたのは那夜だろ」
「な……紛らわしいのよっ」
でも……ということは……
〝よく覚えておきなさい〟って……あれがモナカの成れの果ての姿だからってこと?
は、ははは、そんなわけ……
「〝覚えておけ〟って、そういうこと?」
違う……よね? 違うって言って。
「そうだ」
どうして、違うって言ってくれないの?
……あれがモナカだったなんて……
「どうして……どうしてあの場で教えてくれなかったのよっ!」
目から温かいものが溢れてくる。
私……泣いているの?
「教えても無駄だっただろ」
「無……駄……?」
「大体父さんのことを犬呼ばわりしたり、ロクに確かめもせず勝手に勘違いしたのは誰だ」
「う……」
「このくらいの意趣返ししても罰は当たらんだろ」
「怒っているの?」
「那夜が相手だって虫の居所が悪くなるときだってある」
「だからって……モナカのあんな姿……」
私があのとき気付いていて助けていれば……
「わ……わた……うう……わたひぃ…………私久のーヤーツゥゥゥゥ! ぶっっっっ殺す!」
生きたまま皮を剥いでやる。
「ええっ?!」
「モナカの敵よ。ただ殺すだけじゃ物足りないわ」
痛覚を何万倍にもしてやる。
「クローンじゃない? ふふふふ、だったらそれがなんなのか頭の先からつま先までバラバラにして調べてやろうじゃないの」
気絶できないように脳に魔法を掛けてやる。
「那……那夜? いつ解剖学なんて習ったんだ?」
「解剖学? そんな物必要ないわ。この子が宿った携帯があれば、そのくらい朝飯前よ」
まずは脳を露出してやる。
「っふふふふふ、あーっははははははは、ひゃーっははははははははははは!」
次は全ての臓器を剥き出しにしてやる。
「うわぁ……那夜が壊れちゃったよ。ちょっと揶揄いすぎたかな。どうしよう……。ね、ねぇルイエちゃん、どうにかならない?」
そして目玉を取り出し、でも視神経は切らないように延長しないとね。
「犬に気安く呼ばれる覚えなんか無いんだけど。なんなのよあんた」
モナカの身体を見ていたように自分の身体をよく見せて、違いを観察させてあげましょう。
ああ、私はなんて優しいのかしら。
「ええー?!」
そうだわ。心臓を止めて自分で揉ませてみましょう。
「大体お姉様は〝エイル〟っていうのよ。ああっ、名前で呼んじゃった。きゃっ。ナヨってなに。ミドルネーム……じゃないわよね。しっしっ」
揉むことを止められないように脳に直接刻んであげましょう。
「酷い!」
っはは、いつまで手が脈動の代わりを出来るかしら。
誰もやったことないでしょうから、色々とデータが取れそうね。
「さあ行くわよ。ふふふふ、どう料理してやろうかしら」
ただ殺すだけじゃ済まさないんだからっ!
次回、この恨みはらさでおくべきか




