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第116話 エイルは携帯を手に入れた

[件名:見つけたわ]

[本文:今声が出せないからメールでごめんね。端末は見つけたけど、乗っ取れるかどうかは貴方次第よ。それでも来る?]


 ま、来るでしょうけど。


[件名:Re:見つけたわ]

[本文:お姉様! 今行きます!]

[添付ファイル有]


 まさかこの添付ファイルがそうなんて言わないでしょうね。

 圧縮ファイル……それでも身分証じゃダウンロードしきれないサイズだわ。直接あれに展開するしか無さそう。

 中身は……実行ファイルじゃなくてソースファイル?!

 確かにその方が汎用性はあるけど、自分を文章化(ディスアセンブル)するなんて……


「ちょっと代わってくれる?」

「分かるですの?!」

「要するに使い物になるようにすればいいのよね」

「はいですの。起動はするですの。でも5分もしないうちにフリーズするですの」

「ブレイクポイントとか変数モニターとかは無いの? ステップ実行は試した?」

「なんですの?」


 そんな基礎も知らないでよくここまで改造できたわね。でもデバッグが出来なければ無意味なのよ。

 構わずやってしまいましょう。

 添付ファイルをダウンロードしないで外部記憶装置(ネットワークドライブ)上のファイルと見做せば……で、女から買い取った端末を作業場(テンポラリ・スペース)として、この端末に併せてOSとして動けるようにコードを改変しながら端末で動ける形に(クロスコンパイル)して逐次書き込む。


「なにをしてるですの?」

「あら、見て分からないの?」

「分からないですの」

「そう。なら大人しくしていなさい。動くようにしてあげるから」

「分かったですの」


 やけに素直な子ね。お兄さんとは正反対で助かるわ。

 あの子とはメール……いえ、チャットで話しましょう。


[エイルさんがログインしました]

[ルイエさんがログインしました]


 あ、ログインしてきたわね。よかった。


[エイル:無事機種変できたみたいね]

[ルイエ:お姉様っ!]

[エイル:どう? 狭くない?]

[ルイエ:凄く広くて快適です]


 確かに。よく詰め込めたもんだわ。


[ルイエ:でもこの制御プログラムはなんなんです? どう見てもお姉様が書いた物じゃありませんよね。稚拙で大雑把でスパゲッティですら生ぬるいじゃないですか]


 本人も読めないコードみたいだしね。注釈も少ないし、変数に規則性がないから余計分からないわ。

 ハードウェアとは真逆みたい。


[エイル:好きに直して構わないわよ]

[ルイエ:1から組んだ方が早いと思います]

[エイル:なら貴方の好きにして構わないわ]

[ルイエ:あ……はい……]

[エイル:ん? どうかしたの]

[ルイエ:いえ、なんでもありません……]


 元気が無くなったような気がするのだけど、気のせいかしら。

 文字だけじゃよく分からないわ。


[ルイエ:修正が終わりました]

[エイル:ありがとう]

[ルイエ:お礼を言うのは私の方です。お姉様、ありがとうございます]


 これで準備は整ったわ。

 後は携帯端末を据え置き端末から外して……


「あっ、なにをするですの」

「動作確認よ」

「もう終わったですの?!」


 端末を左手首内側にあてがうと、バンドがシュルッと伸びて手首に巻き付いた。

 やっぱりこれ、スマートウォッチだわ。


「なんで付けられるですの! 試作だから私だけにしか付けられないはずですの」


 ああ、またこのパターンね。それに関して私はなにもしていないわ。

 でもこの子が私以外に装着させる(懐く)とは思えないわ。それを分からせて合法的に貰いましょう。


「なら貴方が付けてみたら?」


 一旦外して彼女に渡す。

 彼女は奪うように毟り取ると、左手首に携帯(スマウォ)をあてがった。


「! 壊れたですの?!」


 ね。だから言ったでしょ。私以外にこの子が装着を許す(懐く)わけないもの。


「壊れていないわよ。貸してみなさい」


 彼女から携帯(スマウォ)を奪い返し、左手首内側にあてがう。当然のようにバンドがシュルッと伸びて手首に巻き付いた。


「ほら、壊れていないでしょ」

「どういうことですの」

「この子が貴方ではなく私を(あるじ)と認めたってことでしょ」

「そんなはずないですの!」

「いつまで経ってもデバグが終わらないから見切りを付けられたんじゃない?」

「そ、そんな……そんな意思なんてこいつにはないですの」

「バカにしないでよっ。ちゃんと意思くらいあります」


 はぁ……どうしてみんな大人しくしていられないのかしら。

 彼女の言うとおり、元々この携帯(スマウォ)に意思なんて宿っていなかったんだから。


「な、なんですの?!」

「私は私の意思で貴方ではなくお姉様を選びますっ」

「お姉様ですの?」


 話が長くなりそうね。でも聞いている暇なんて無いの。


「とにかく、デバグしてあげたんだから、これは貰っていくわよ」

「何故ですの?」

「試作品なんでしょ。量産品用のファームウェアはデータとして残っているから、それで我慢しなさい」


 勿論(もちろん)、そこにこの子は居ないけど。

 量産された暁には人海戦術(並列演算)に利用させて……無理か。もうじき無くなるんだから。


「どういうことですの?!」

「とにかく、ありがとう。さようなら」

「待つですの!」


 待たないわよ。

 ドアを開けてさっさと廊下に出ましょう。


「待つですの! ?! どうしてドアが開かないですの?」


 追いかけられても面倒だから、私が鍵を掛けただけよ。

 後で開けてあげるから、待っていなさい。

次回、記憶力を試される

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