第115話 哀れな妹
大分ロスしてしまったわ。何処かに良い端末、落ちていないかしら。
しかし楽ね。周りが騒がしいから堂々と家捜ししてもなにも言われないんだから。
とはいえ、携帯端末となると限られてくるわ。この倉庫も設置型なら割とあるけど、可搬型はあまりない。それに少し大きいわ。かといって携帯型だと能力不足だし、そもそも置いてすらいない。
OSもどうにかしないと。あの子はロツィンOSじゃ動かないからなー。環境も整備するとなると、もうほとんど時間なんて残っていないわ。
2時間にしておけばよかったかも。
こっちの部屋は……大型しか設置されていない。素直に家電量販店に行けばよかったかしら。技術開発局という名前に騙されたみたい。
あら? この扉、開かないわね。私の権限で開かないなんて……ま、関係ないけど。いつものようにクラッキングして開けましょう。
「誰ですの?」
また私久なの?! あの部屋に戻ってきた……訳ではなさそうね。さっきみたいに血の臭いがしないわ。
「あら、もう忘れたの? さっき会ったばかりじゃない」
「……知らない人ですの」
んん? こいつ、よく見たら男じゃなくて女?!
顔は同じだけど、肌の質感が少し違うわね。髪も僅かに長いし、艶があるわ。
「ごめんなさい。人違いみたい。貴方によく似ていたから」
「……お兄さんのお友達ですの?」
お兄さん? だから顔が似ているのね。
だとしたら可哀想。お化粧で頑張っているみたいだけど、報われていないわ。
「貴方、私久の妹さん?」
「はいですの!」
「そう。お兄さんとはちょっとした知り合いなの」
嘘は言っていないわ。
「お兄さんの知り合いですの! 私ともお知り合いになってほしいですの!」
お兄さんと違って人懐っこいのかしら。
「もう私たち、知り合いでしょ」
「ホントですの?!」
「ええ」
「嬉しいですの!」
「そう。それはよかったわ」
こんなことしている場合じゃないわ。なにか手頃な端末は……
「なにか探しているですの?」
「ええ」
「なにを探しているですの?」
「携帯端末よ」
「お兄さんに言われたですの?」
「そんなところよ。でも時間が無くてね。無さそうだから――」
「なら、これのことですの!」
「これ?」
この女が操作している端末の前に、掌に乗るくらいの物がはめ込まれているわ。
「今私が試作している物ですの」
「貴方が作ったの?」
「ですの」
腕時計の本体みたいな形ね。はめるためのバンドが付いていないわ。
「ハードは出来たですの。でもソフトが難航してるですの」
「ふーん。ちょっと見せてみて」
「これは私が書いた物ですの。汎用とは違うから分からないと思うですの」
そんな言葉は無視して彼女の後ろからモニターを覗き込む。
オリジナル……というには無理があるわね。ベースのOSをかなり強引に改変しているだけみたい。
中身も魔視で覗き込んでみましょう。へぇ。ハードウェアとしてはしっかり作り込まれているようね。この大きさによく詰め込んだと言うべきかしら。
どう考えても〝私が考えた最強の端末〟よね。やり過ぎ感が否めないわ。
ただそれを形に出来た技術力は賞賛に値する、けど……ソフトウェアはお粗末な物ね。
でもこれなら……あの子なら掌握できそうね。
次回、乗っ取りましょう