第114話 制限時間
私はみんなを捨ててきたのよ。
なのにどうして……
〝ああ、でも今は無理ですね〟
無理?
身分証は圏内だ。
私が話しかければすぐにでも……
「どういうこと?」
〝モナカさん、敵に捕まっちゃったんです〟
「敵?」
〝ここの人のことです。先生……タイムさんも身動きが取れなくなってしまったんです。だから今、トキコさんが助けに行っています〟
「時子が? 他のみんなはどうしたの?」
〝アニカさんとフブキさんはアトモス号でお留守番をしています。ナームコさんとスズさんは敵に捕まりました〟
「2人も捕まっているの?!」
〝はい。ですがモナカさんとは別で捕まりました。デイビーさんは……なんて言えばいいんでしょう。あっ! お姉様は大丈夫ですか?〟
「なにがかしら」
〝お姉様が居るところは魔素が無いんです。だからデイビーさんはタイムさんの保護膜で守られていました。ですがタイムさんが機能停止してしまったから保護膜も使えなくなって、ドロドロに溶けてしまいました〟
「溶けた?!」
父さんが言っていたのはこのことだったのね。
なんでそんな重要なことを言わないのよ。
「私は大丈夫よ。姿や声が変わったのはそうならないためなの」
〝そうだったんですね。よかった〟
つまり、時子が1人で助けに向かっているってことね。
あの子にそんなこと出来るかしら。
「モナカは私が助けに行くわ」
〝えっ〟
「居場所は分かっているの?」
〝お姉様…………多分トキコさんが把握しているはずです。合流されては如何でしょう〟
「……考えておくわ」
〝……お一人で行かれるんですね。ならやっぱり今すぐ私も――〟
「分かったから、ちょっと待ちなさい。貴方が入れそうな端末を見つけてくるから、それまで待って。お願いよ」
〝本当ですか!〟
「ええ、約束する。1時間以内に見つけるから。ね」
〝分かりました。約束ですよ〟
「ええ。但し、私のことはみんなには内緒よ」
〝内緒……ですか。分かりました〟
「じゃ、後でね」
〝はいっ!〟
ふう。面倒なことになったわ。
でも、モナカが生きている。
しかも今ここに居る!
ふふっ。
「なにかいいことでもあったのですか?」
「え? どうして?」
「そんな顔をしているからです」
「ふふっ、まるで恋する女の子みたいね」
「バッ、バカ言わないで。オバさんをからかうのは止めてよね」
「歳は関係ないんじゃない? ふふっ」
私が? 検体に?
馬鹿馬鹿しい。
検体として有用だから興味を持っているだけよ。
それだけなんだから。
とにかく、まずは小型端末ね。
はぁ、厄介な約束をしてしまったわ。
家電量販店に買いに行けば……そういえばここって技術開発局よね。手頃な端末とか置いてないかしら。ちょっと探してみましょう。
「あっ。那夜さん、何処に行くんですか。車に戻らないのですか」
「ちょっと用事が出来たの。先に戻ってていいわよ」
「いえ、付いていきます」
付いてこられても邪魔なんだけど。
だったら。
「なら別の仕事を頼まれてくれるかしら」
「別の仕事……ですか」
「ええ。足りない物があるんだけど、ここに置いていないのよ。それを手に入れてきてほしいの」
「なにを持ってきたらいいんですか?」
「制御用チップ」
「制御用チップ……ですか」
「汎用タイプでいいわ。特化品なんて無いでしょうから」
「なにに特化してるといいんですか」
「|MC-DCコンバーター《魔力-電力変換器》だけど、分からないでしょ」
「……分かりました。制御チップですね」
「頼んだわよ。それと、話し方は今までどおりでいいわ」
「そうか? 正直話しにくかったから助かる」
「手に入ったら連絡して」
「連絡?」
「ええ。それじゃ」
「あ、待った。連絡なんてどうすればいいんだ!」
「電話でいいわよ」
「電話?!」
「那夜! 待ちなさいっ!」
「分からなければ今晩寮で合流よ!」
待てと言われて待つわけないでしょ。
1時間の約束なんだから。
次回、同じ顔