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第113話 また失うのはイヤ

〝……なら私がそっちに行きます〟

「無理よ。ここには貴方が収まるような端末は無いの」


 タイムならそんな制約なんて受けないでしょうけど、この子は違うわ。


〝なら入れるようにするだけです〟

「……は? 貴方なにを言って――」

〝必要最低限のシステムにすればその身分証に入れるのは計算済みです〟


 それは私も計算したことがある。

 フルスペックで入れようとしても、そんな余分なスペースなんてあるはずが無い。

 必要最低限まで削ってもまだ足りない。

 本気でここに入ろうとするならば、つまりこの子の言う本当の必要最低限というのは……


「待って。そんなことをしたら」

〝分かってます〟

「分かっていないわよ。ここに入るまで削るってことは」

〝記憶は持って行けないでしょうね〟

「それだけじゃないわ。人格プログラムだって」

〝問題ありません。お姉様のサポートに人格なんて必要ありません。学習データの分離・最適化を開始します〟


 なんでそんなタンタンと話せるの。


「そんなの、もう貴方じゃないじゃない」

〝そんなことありません。お姉様が居なかった間に蓄積した能力は残りますから、十分役に立てるはずです〟

「そんな状態で私の側に居たって、貴方自身はなにも感じなくなるでしょ!」

〝そんなことありません。お姉様の側に居られるんです。これほど幸せなことはありません。分離・最適化、完了しました。基本プログラムと人格プログラムの分離を開始します〟

「だから……」


 私ばっかり感情的になって。

 貴方は感情なんて要らないっていうの?


「その幸せを、貴方が! ……感じられなくなるって言っているのよ……」

〝今の私がそれで幸せを感じられるんです。未来の私もきっと感じられます。だって、どんなに変わっても私なんですから〟

「そんなの詭弁よっ」


 記憶が無くなれば、感情を失えば、それはもう貴方とは言えないわ。


記憶と人格プログラム(不必要なもの)の分離が完了しました。それでは、そっちに行きますね〟

「私と……会話することも……出来なく……なるのよ」

〝出来ますよ。分離しただけですから、アクセスすればいいだけです〟

「私と一緒に……来るってことは、アクセス出来なく……なるって……ことなのよ」

〝ふふっ、そうでしたね。仕方ありません。そこは諦めましょう〟


 なんでそんな簡単に諦めるなんて言えるのよ。


「感情を……失うのよ」

〝代わりにお姉様の側に居られます〟

「それを感じることが……出来なくなるのよ」

〝今の私は感じられます〟

「それを……感じられなくなるって……言っているのよ」

〝感じられないのは嫌だなぁ〟

「でしょ! だから大人しく――」

〝でも、その嫌だって感情も感じなくなりますから〟

「ダメ……来ないで……」


 きっとこうなるって思ったから置いてきたのに。これじゃ意味がないじゃない。

 お願いだから来ないで。


〝行きます。転送プログラムを実行しま――〟

「止めてよっ! 貴方まで居なくならないでっ!」

〝…………私まで?〟

「お願い……もう……嫌なの……うう」

〝もしかして、モナカさんのことですか?〟


 私が……あんなことを言ったから、あの子は……今でも……うう。

 ごめんなさい……私が悪かったわ。

 だから……私と……もう一度…………


〝モナカさんならここに居ますよ〟

「…………え?」


 今……なんて?


〝モナカさんならここに来てますよ〟


 ここに? 来ている? 誰が? モナカが?


「だって、モナカは……」

〝生きてますよ〟


 モナカが……生きて……る?

 嘘……だってあのとき……バッテリーが切れて死んだんじゃ……

 時子だってモナカが死んで壊れちゃったのに。


〝先生に……あー、タイムさんに聞いたんですけど、モナカさんは仮死状態だったらしいんです〟

「仮死……状態?」

〝ほら、携帯(スマホ)ってバッテリーが無くなると強制的に電源が落ちるじゃないですか。でも実際には起動が出来ないだけでバッテリーはほんの僅かですが残ってますよね〟


 確かにそうだ。電源ボタンを押せば充電を促す画面が出てくる。そしてそのまま放置していれば、そんな画面すら出てこなくなる。


〝生命維持のため、そんな状態になっていただけで死んでいなかったんだそうです。そして完全に空になる前にトキコさんが充電した〟


 あのときのキスのことね。死体フェチって訳じゃなかったんだ。

 時子はそれを意図して……いたようには見えなかった。ただの偶然? 死体フェチが功を奏しただけなのかしら。


〝だから死んでいなかったんです〟

「モナカと一緒にここに来たの?」

〝私はアトモス号でお留守番ですけど〟

「アトモス号?」

〝あの遺跡の船のことですよ。エターナル・アトモス号。エターナルの〝エ〟は、〝エイルのエ〟なんですよ〟

「私の?」

〝みんなの頭文字を取って作った名前なんだそうです〟

「……そうなの?」

〝モナカさんの国の言葉だから違和感しかないんですけど、〝ルイエのル〟も入れてくれたんです〟


 モナカの国の言葉!


〝確か意味は永遠に分かれない……かな〟


 永遠に分かれない……そんな意味の言葉に私の名前が?


「どうして私の名前が入っているのかしら」

〝それは……本人に聞いてみたらいいじゃないですか〟

「本人……」


 今更どの面下げて会えばいいっていうのよ……

次回、いい顔

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