第111話 子供扱い
データベースにある在庫記録を漁ってみたけど、あの男の言うとおり、ここには無いみたいね。
他の施設にあるとは思えないから、もしかして詰んだ?
「目的の物は手に入らなかったのかい?」
「ううん、手に入ったよ。なんで?」
「浮かない顔をしてるからかな」
「ふふっ、そんなことないよ」
「あんた、そこで戻すの?」
チッ、五月蠅いわね。ちょっと気が緩んだだけよ。
とりあえず女を睨み付けて、微笑みながら男に視線を戻した。
「あっはは。疲れないかい?」
「う……な、なんのことかな」
「あんたまだ続ける気? もうバレてるんだからいいでしょ」
ほ……本当にバレている……の?
「……いつから?」
「いつからって、えっと……最初から?」
さ……嘘でしょ!
だって……はあ?!
「あっはははははは!」
くっ、これ見よがしに笑わないでくれる!
「なんで……分かったの」
「んー、子供っぽい話し方だなって思ったけど、内容は子供っぽくなかったからね。そういう話し方の子かなくらいにしか思ってなかったよ。でも寮母さんと話すときは口調が違うからちょっと変だなとは思ってた」
「だったら先に言いなさいよっ!」
「あはははははははははは」
「そこ! 五月蠅いわよっ」
「ひぃっひひひひ。那夜の……くく、声の方が、ひっ、大きいじゃない。っふふふふふふ」
むぐぐぐぐ……
「あ、貴方が……貴方が最初に私のことを〝那夜ちゃん〟って呼んだからでしょ!」
「えっ」
「私は〝ちゃん〟付けされるような年じゃないわっ」
「ええっ?!」
「あー、それは拾十が悪い」
「俺が悪いのかよっ」
「なら私のこと、ちゃん付けで呼ぶ?」
「……呼ばないな」
「同僚の女の子は?」
「……呼ばないな」
「同級生は?」
「今は呼ばないな」
「中高生の女の子は?」
「それは呼ぶ……かな」
「拾十……それは失礼なことよ。止めなさい」
「ええっ?!」
「大概の子はそんな子供に見えるのかなって傷つくわよ」
「俺から見たら学生なんてみんな子供だぞ」
「あんたは……そういうことを言ってるんじゃないの! 分かりなさいよ。全く」
「ごめん」
「私に謝ってどうするの!」
「あ、そっか。ごめんなさい。俺が悪かった」
「もういいわ。言っておくけど、私の方が年上なんですからね」
「えっ?」
「は? あんたなに言って――」
「目上の人を〝あんた〟なんて呼ぶもんじゃないわ」
「う……なら那夜さんは幾つだっていうのかしら」
「あら。女性に歳を聞くなんて失礼なんじゃない?」
「それは……ごめんなさい」
「いいわ。でもそうね。多分50を回ってたと思うわ」
「それは幾らなんでも盛り過ぎでしょ!」
「前世の記憶が残っているのよ。って言ったら……信じる?」
「前世?!」
「……なんでもないわ。とにかく一旦車に戻るわよ」
「は、はい……」
なにしてるのかしら。ガラにもなくペラペラ喋って……
ダメね。
っと、身分証が震えてる? 幻振症候群……ではなさそうね。
こんなところまで魔波が届くとは思えないけど……え、圏内になっている? 嘘でしょ。
一体誰が……通知不能番号……か。
次回、電話に出ます