第11話 思い返すと恥ずかしくなること
予定どおり二泊三日で帰ってきた。現地は他の職員が引き継ぎ、デイビーは帰ることになった。
……のはいいが、なんでさも当然という顔でアトモス号に乗ってくるんだよ。
「でも3人分の食料を積んだのはマスターだよ」
くっ……気付かれた。乗せる気がないのなら俺と時子の2人分で十分だ。鈴ちゃんはまだ食べられないからな。
とにかく、行きは3時間掛かった結界通過もサッと通過。その勢いで中央省にローゼンバース号を連れていく。当然デイビーも叩き降ろした。
「また連絡しますので、よろしくお願いします」
もう十分だろ。そう思ったが、デニスさんの立ち寄ったところに行くには無視するわけにもいかない。
だから我慢して呼ばれて行ってみればまたローゼンバース号を牽引してくれという始末。
面倒くせぇ……
なので牽引の繰り返し。
そんな生活もひと月経った頃、漸く鈴ちゃんが元気になった。狭い水槽に閉じ込められていた鬱憤が溜まったのか、俺にしがみ付いて離れようとしない。
なのでデイビーのメールはとりあえず未読無視した。電話も着拒にしておいた。
これで邪魔されず鈴ちゃんと過ごせる。
……のはいいんだけど、甘え方が半端じゃない。
おかしいな。こんなに甘える子じゃなかったのに。ずぅぅぅっと背中にしがみ付いて離れない。家の中でもお出かけのときでもとにかくずっとだ。
さすがにご飯のときは椅子に座るけど、食べさせてとせがむ始末。
トイレも一緒。
シャワーは時子も一緒じゃなきゃイヤだと泣くし。泣きたいのはこっちだよ。
確かに魔神たちの結界ではみんなで一緒に風呂に入っていたよ。でも風呂に入ってしまえば色々と見えなくなる。
しかしシャワーはそうもいかない。しかも狭いから3人で入れば色々なところが当たる。
嬉しいやら恥ずかしいやら……あーっもう!
寝るときも3人川になって寝ている。いつの間にかベッドが大きくなっていたから前みたいに窮屈ではない。
トレイシーさん、ありがとうございます。
鈴ちゃんを挟んで3人で手を繋ぐと充電効率が爆上がりする……という謎現象のお陰で時子とキスをしなくても十分充電できる。そもそも週一で済むのに何故か毎日寝る前の日課になっていたのがおかしいんだ。
その日課がなくなる……はずだった。
「だからしなくても問題ないって。そうだろ、タイム」
「それは……時子と相談して」
「相談って……えっと……」
タイムなら〝問題ない〟って即答してくれると思ったのに。
結局ズルズルと日課を続けている。
というのも。
「次は鈴!」
「はいはい」
とまあそんな感じで鈴ちゃんのホッペタにおやすみのチュウ。
「ふふふっ。はいパパ、チューッ!」
お返しに俺のホッペタにおやすみのチュウ。
「ママ! マーマ!」
「はい、チュッ」
「ふふふふっ、チューッ!」
時子と鈴ちゃんもホッペタにおやすみのチュウ。という日課に変化している。
どうして鈴ちゃんにはホッペタでいいのに、時子には普通にキスなんだ。ホッペタでいいだろっ!
と思って1回ホッペタにしたらやり直しをさせられた。
なんでだよっ!
そんな感じで1週間も経つと鈴ちゃんが俺を避け始めた。
「鈴」
と声を掛けても時子の後ろにサッ。
壁の後ろにサッ。
とにかく物陰にサッ、サッ、サッと隠れる。
食事のときも隣に座らず反対側に座る始末。目が合うとサッとテーブルの下に隠れようとする。隠れきれてないけどね。
なのに何故かトイレとお風呂は一緒に入ってくれる。あ、でもトイレは俺が入るときだけで鈴ちゃんが入るときは「パパはダメ!」って言って入れてくれなくなった。つまり、魔力が無い俺のために介護だけはしてあげる……ということなのだろう。
「甘えていた自分が恥ずかしいだけだから、落ち着くまで待ってあげて」
「ママ!」
そうなのか。
図星らしく、耳まで真っ赤にして恥ずかしがっている。
確かにトイレとシャワーは甘えじゃなくて俺の介護だから恥ずかしくないのか。
そのまま甘えていてくれてもよかったのに。
そんなこともあったけど、移住の方は2ヶ月もすればなんとか落ち着いた。結局移住組と居残り組で分かれたらしい。どのみち農業や牧畜は継続させるつもりだったという。
ただ、月一で定期的に行き来するときに牽引させられるのはどうにかならないだろうか。
それでも結界都市では手に入らない牛肉や豚肉や鶏肉に魚といった特産品を優先的に回してもらえるので文句を言いづらい。
ああ、ビーフステーキ美味いな。豚カツ美味いな。唐揚げ美味いな。塩焼き美味いな。さらば、ネズミ肉! ……とはいかなかったけど。
次回、目的地は近い