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第107話 とうとう私のものに!

 隔壁に掌をかざすと当たり前のようにスッと開いた。

 これまでの騒がしさと打って変わって静かなものである。

 この先は一部の許可された職員の中でも、更に一部の特別な職員しか入れないエリア。それだけ重要な物があるということ。

 目的の物はもう目の前だ。隔壁を越えるとスッと閉じた。


「ひっ。し、閉まっちゃったよ」

「当たり前でしょ。扉なんだから」

「ちゃんと帰れる……よね」

「不安なら今すぐ帰ってもいいのよ。不審者として」

「それじゃ捕まっちゃうわ!」

「捕まらないように逃げなさい。私たちはその尊い犠牲を生かして目的を果たすわ」

「生かさないで!」

「なら黙って付いてきなさい」

「うう……」


 全く、落ち着きの無い女ね。

 さて、目的の物が今何処にあるかもう一度確認しましょう。


「ひっ、今度はなに!」

「五月蠅いわね。地図を確認しているだけよ。ほら、ここが現在地。で、目的の物がここよ」

「そ、そうなんだ…………なんか、近くない?」

「ええ、あそこに見えている扉の向こうよ」

「ええええええ」

「五月蠅い! いい加減にして」

「う……だってぇ」

「甘えるのは私が居ないときにして。今はデート中じゃないのよ」

「デートなんてしたことないわよっ」

「えっ」

「そういうのは後にして。行くわよ」


 男はデートしてたつもりでも女はそう思っていなかったってパターンかしら。

 そんなことはどうでもいい。

 とにかく、あの扉の向こうよ。

 誰も居ない廊下を歩く。

 足音だけが……訂正、足音とバカ女の不安そうな呻きだけが響いている。

 私にしがみつかないで男にしがみつきなさいよ。だから発展しないんじゃないのかしら。

 とりあえず引き剥がして男に押しつける。


「ひゃあ!」


 私がキッと睨むと、大人しく男にしがみ付いた。それでいいのよ。

 男に目線で〝話すな、そして離すな〟と言うと、理解したのか頷いて女の肩を抱き寄せた。女がまた奇声を上げそうになったところを、男が手で塞いだ。そこは唇で塞いでおきなさいよ。……いや、それはそれで迷惑ね。

 とにかく、扉の前に着いたわ。この先に……情報どおりならアレがある。アレが……今更手に入れて私はどうしたいのかしら。どうせならもっと前に……はぁ、ここまで来てなにを迷っているの! 行くわよ。

 扉に掌をかざすとスッと開いた。その扉の先の部屋には、男がひとり居た。その男は私たちに気づく様子もなく、黙々となにかをしている。もしかしてあの男がいじっている物が目的の物? どっちにしても邪魔な存在ね。


「扉を開けたら閉めるのです」

「そうね。それは悪かったわ。ほら、貴方たちも早く入りなさい」

「えっ」

「ほら、入ろう」

「あ……う、うん」


 なに赤くなっているのよ。こんなときにイチャつく余裕があるなんてね。

 あっちの男は一言発しただけで手を止めることなく黙々と作業中のようね。

 さて、私の捜し物は何処かしら。あの背中を向けて作業している男がいじっている物がそうなのかしら。

 う……あれは人間の開き? 魚じゃないのよ。頭の先からつま先まで綺麗に開かれているわ。皮膚という皮膚が全て剥がされ、肉が切り開かれ、主要な臓器がむき出しにされている。


「う……あ………」


 えっ、あれで生きているの?!

 心臓が脈打っているのが見えるわ。の割には出血が少ないわね。ああ、魔力で血管を繋げて血流をちゃんと確保しているのね。

 この男、それなりの実力者みたい。

 肺も膨らんでは萎んでを繰り返している。自発呼吸しているようね。

 この開きになっている人間が面白い物? 既にバラバラにした後みたいね。手遅れ……ということ?

 所々に機械部品が埋め込まれている。機械化生命体をバラしているのかしら。

 気にはなるけど、目的はそれじゃない。アレは何処かしら。


「……なんです?」

「気にしないで。私は私で必要な物を探すから」

「……なにが欲しいのです?」

「|MC-DCコンバーター《魔力-電力変換器》よ。ここにあるはずでしょ」

「それならこれのことでしょう」


 男は作業をしながら、掌サイズの小さな物を机の脇にコトリと置いた。

 半信半疑だったけど、本当にあったのね。


「ありがとう。貰っていくわよ」


 これで私でも……ふっ、今更なにを考えているのかしら。なのにその歩みを、伸ばした手を止められない。

 私がそれを取り上げると、男は頭をほんの僅かだけ動かし、手を止めた。


「……ま、いいでしょう。早く出て行くのです」


 そう言うと、また作業に戻った。


「言われなくても出て行くわ。邪魔して悪かったわね」


 用事も済んだし、帰りましょう。

次回、結晶は安定している状態

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