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第106話 金田 ロンダー集の憂鬱

 あれからもうずっと徹夜続きだ。お陰で夜もろくに眠れない。家にも帰れない。妻の温もりが恋しいぞ。

 ふあ……それにしても眠い。

 現状思金(オモイカネ)を見ていてもなにも起こらない。過去ログを幾ら見てもなにも分からない。

 そもそも思金(オモイカネ)がなにも言い出さないのだから、人の身で分かるはずがない。仮に分かったところで思金(オモイカネ)にどうやって教える? 教えたところでこっちが間違っていると一蹴されて終わりだ。間違えないことを前提に人の手で改竄されないようになっていたはずなのに、その改竄を直す(すべ)がないという。

 苦情の通知が鳴り止まない。尤も、鳴り止まないのは部下の端末で、私の端末は内線以外全て着信しないようにしてあるから静かだがな。

 ああ、やはり眠い。

 なにも分からないが、モニターの監視だけは続けないと……ふぁ……ああ、まぶたが重い。

 ………………

 …………

 ……

 うおっと、危ない危ない。寝てしまうところだった。ほんのちょっとだけまぶたが落ちてしまっていたよう……だ?

 ん? おや? おかしいな。さっきまでと数値が変わっているような気が……

 しかし思金(オモイカネ)はなんの反応もしていない。

 気のせいか? 気のせいだな、うん。気のせい気のせい。

 気のせいだが……念のため確認してみるか。

 ……んん?!

 気、気のせいかな。またベルの発行数が増えているような気がするぞ。

 いやいやいや。どうやら私は寝てしまったようだ。まさか夢の中で夢を見ていると気づくことになるなんて思わなかったぞ。

 先ほどの一瞬で夢の世界へ入り込んだとは、私もよほど疲れていたのだな。だからといって許されることではない。職務中に居眠りなど言語道断。早く起きなくては。

 おい私、早く起きるんだ! 寝ている場合ではないぞ。

 そんなとき、都合よく部下からの非常呼び出し音が響き渡った。

 これで起きられる!

 しかし私の意識は未だ夢の中らしい。目が覚めぬ……何故だ。

 とりあえず落ち着こう。落ち着いたら部下からの呼び出しを受けようではないか。

 深呼吸深呼吸……すぅ……はぁ…………鳴り止まぬな。そして目が覚める様子もないな。

 ほっぺたをつねってみよう。……痛いっ! なっ、何故だ! 夢の中は痛覚が無いのが定説なのでは! これは新しい事象なのだろうか。

 とりあえず、夢の中で部下からの通知を受けてみようではないか。


「金田だ」

〝金田財務長官、大変です〟


 ふむ、夢の中でも大変なことが起こっているのか。せめて平穏な夢が見たかったぞ。


〝また物価が上がりました〟

「そうか。で、原因はまたベルの価値が下がったからか?」

〝はい。ご存じでしたか〟


 はぁ、私も想像力に乏しい男のようだ。なんて安易な原因を想像してしまったのだ。どうせならベルではなく資源の枯渇による高騰といった感じで変化を付けてもよかったのだぞ。


「まぁな。それで、やはり下がった原因も不明なのだな」

〝はい。なにもかもが先日と同じ状況なのです〟


 私よ。そこまで想像力に乏しい男だったのか。嘆かわしいことだ。

 しかし、再現力は素晴らしいものがある。まるで本物の部下と話しているかのような錯覚に陥るではないか。

 どうせならもっと優秀な部下を登場させてもよかったのだぞ。むしろ既に解決してみせるくらいの部下で構わなかったのだぞ。

 夢なのだから、そのくらいアリだぞ。ん? どうなのだ? 私よ。


〝長官? どうかなさいましたか?〟

「いや、気が利かぬなと自分に文句を言いたくてな」

〝はぁ……対策は如何致しましょう〟

「なにもしなくてよい」

〝なにも……ですか〟

「ああ」


 私の目が覚めれば元に戻るのだからな。


〝分かりました〟

「ところで、今度は総発行数が幾らになったのだ?」

〝そのこともご存じでしたか〟


 ふっ、やはり私の想像力は貧困だ。ただなぞっただけではないか。情けない。


「で、どうなのだ?」

〝それが……2兆4163億ベルです〟

「…………は?」

〝2兆4163億ベルです〟


 私よ。それはいくらなんでも増やしすぎではないか。

 ああ、夢でよかった。現実だったら漏らしていたかもしれない。

 いや、夢ということは、寝小便を垂れている真っ最中かもしれんな。この歳になってそのような失態……しかも自宅ではなく勤務中にだぞ。なんとしても回避しなくては!

 ふむ、触って確かめてみたが、とりあえず夢の中の私は股間を濡らしていないようだ。ひとまず安心……ということか。


「分かった。引き続き監視を続け給え」

〝分かりました。では〟


 ふむ、なかなかリアルな夢だったな。

 もう十分だ。いい加減目を覚ましてくれ。これ以上は私の精神が持たないぞ。

 さあ、早く目を覚ましてくれ。頼むから、夢であると言ってくれ。こんな悪夢、さっさと終わらせてくれ。

 居眠りしてしまった叱責は甘んじて受けよう。だからお願いだ。夢なら覚めてくれ。

 もう許してくれ。私は……私……は…………


「あ、ああ、あああああああああああ」

次回、念願の○○を手に入れた

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