第103話 ザ リアルタイム オペレート トレーシング システム ニュークリアス
なんだ。家電量販店なんてたいそうな名前つけているからさぞ凄いところなんだろうと思ったけど、ただの電気屋さんじゃない。ドキドキして損した。
〝いらっしゃいませ〟
自動ドアを入ると、自動音声案内が答えてくれた。たったそれだけだけど、日本が懐かしく感じられるわ。
えーと、何処に行けばいいのかしら。エスカレーター脇に案内板があるみたいだから、見に行きましょう。
『売り場は2階のようですね』
『2階ね』
エスカレーターに乗り、2階に上がる。なんか、本当に日本に帰ってきたかのような感覚になるわ。
電気屋さんには……先輩と何度かしか来たことはないけど、それでも鮮明に覚えている。ここはパソコン売り場ね。
『どのパソコンを買うの?』
『パソコンは買いません』
『買わないの?!』
『通信機能の付いた携帯端末を買います』
『それって携帯のこと?』
『携帯ではスペック不足ですね。携帯でしょうか。携帯でも構いませんが』
『そ、そうなの?』
なにが違うのかしら。
『で……どれを買えばいいの?』
『現品を見て決めましょう』
『店員のお勧めは?』
『時子さんなんて売れ残りを押しつけられるのが関の山です』
『酷い!』
『ええ。店員なんてそんなものです』
『酷いのはお義姉ちゃんだよ!』
『え? 私は忠告してあげたのですよ』
『ぶーっ』
そんなことないもんっ。
『うーん、今度は向こうを見てみましょう』
『はいはい』
「なにかお探しですか?」
「え? あ、その……通信の出来る端末が欲しいんですけど」
『時子さん、答えてどうするんですか。買わないで躱して下さい』
『え?』
「そうですね。こちらなんてどうでしょうか」
お義姉ちゃんが素通りしたヤツだわ。
「他のものの方がいいかな」
「かしこまりました。ではこちらなんてどうでしょう。最新型であらゆる用途にご利用できますよ」
『ダメダメ。使わない機能がてんこ盛りでコスパが悪いわ。なにより重いしバッテリーの持ちも悪い』
「えーと……んー……なんだっけ……あー……バ、バッテリー持ちが悪そう……かな」
「なるほどなるほど。でしたらグレードは下がりますが、こちらはどうでしょうか」
『それ、私の知らないOSだからダメ』
『……なに?』
『さっさと断りなさいっ!』
「ひゃあ!」
「お客様? どうなされましたか」
「あ……その。お、お義姉ちゃんが気に入らないからダメだって」
「お姉様ですか。お使いになるのはお姉様ですか? なにかお望みがあれば仰って下さい」
『あーもーしつこいわね。だったらロツィンOSの最新機種で軽くてバッテリー持ちがいいヤツが最低ラインって言ってやって』
『……え?』
『オウム返ししなさいっ!』
『はいっ!』
もー、難しい単語並べられても分からないよ。
「ふむふむ。なるほどなるほど。ロツィンOSとなるとかなり古いですね」
『え、あるの?!』
『無いと思っていたものを頼んだの?!』
『だって、エイルさんの世界のOSですよ。あるなんて思わないじゃないですか』
「さすがにロツィンOSそのものはありませんが」
『なによ、無いんじゃない』
「後継OSのものではどうでしょう?」
『後継OS?! 現物を見せてもらって!』
「現物を見せてもらえますか?」
「承知しました。こちらへどうぞ」
案内されて付いていったところには、携帯が並んでいた。
「こちらに展示されているものです」
『ありがとう。後は自分で選べるわ』
「ありがとうございます。後はお義姉ちゃんと相談しますので」
「承知しました。ごゆっくりどうぞ」
『ふーん。なかなか使える店員じゃない』
『もう。そんな風に言わないの。でも携帯だとなにかが不足してるって言ってなかった?』
『ロツィンOSなら問題ありません』
『そうなの?』
『はい! エイルさんの世界ではほぼ全ての機械制御に使われているOSですそれらが簡単にリアルタイムで相互作用できて――』
『あーそうなんだ。凄いねー』
なんのことかさっぱり分からないわ。
『そうなんです大昔に国が外国に媚びなければ機器だけでなくパソコンにだって搭載されていただろうっていつもエイルさんが言ってました』
『そ、そうなのね』
なんか早口だから、なにを言っているのか余計分からないわ。
『それよりどれを買うつもりなの?』
『ちょっと見てきますね』
『見てくる?』
そう言うと、お義姉ちゃんのアイコンに[出張中]の看板が立てかけられた。
……出張? 出来ないんじゃなかったっけ。
『お義姉ちゃん?』
[ただいま集中作業中です。しばらくお待ち下さい]
なんか変なウインドウが出たんですけど。待つしかないのか。
『ただいま』
『あ、お帰りなさい。どうだった?』
『うん、どれも面白かったわ』
『そうじゃなくて!』
『ああ、そうね。これにしましょう』
ひとつの携帯に赤い矢印が付いている。これのことかな。
次回、掌底ではありません