第10話 魔法文字の正体
一筆書きどころか文字が崩れるだけで魔法が発動しない。そもそも一筆書き出来るような文字じゃないのよね。
とりあえず魔法陣だけ綺麗に描いて、魔法文字だけ一筆書きしているけど、ピクリとも発動しない。
「ただ一筆書きしても発動しないぞ。そもそも魔法文字を理解してるのか?」
「しているわよ。魔法を発動するために必要な文字でしょ」
「はぁ……そこからか」
明らかに落胆して項垂れている。
「なによ。違うっていうの?」
「まずその勘違いから正そうか」
「勘違い?」
これが勘違いだというのなら、私たち工房の職人は魔法杖に一体なにを刻まされているのよ。
「魔法文字に那夜が言うような意味は無い」
「そんなわけないでしょ。ならどうして正しく描けば正しく発動するっていうのよ」
「まず、魔法文字が無かった頃はどうしていたか分かるか」
「無かった頃?!」
そんなこと考えたことも無かった。
「無かったからといって魔法が使えなかったわけじゃない。始めに言葉があった。そして文字が生まれた。当然文字を作った人間が居る。つまり魔法文字はその最初の人間、人間たちが魔法を扱いやすいようにするために造られたに過ぎない。別の人間たちが作っていたらまったく違う文字になっていただろうな。そのくらい文字なんて適当なんだよ」
「神が与えた文字とかじゃないの?」
「確かに神族が与えた世界もあるだろう。しかし、それだって人間ではなく神族が魔法文字を作ったという違いにしか過ぎない」
そう言われてしまえばそうだ。結局、誰かが作らなければ文字は生まれない。それが人間かどうかなんて些細なことは関係ない。何故なら文字は自然発生なんてしないからだ。
「私にとって扱いやすい文字を作れと?」
「速記なんてそんなもんだろ。例えば5文字使って表す言葉をひと文字で、しかも少ない画数で書き記す。それは書いた本人にだけ分かれば問題ないそいつだけの文字だ。魔法文字ってのは誰もがそういう意味だと分かっているから誰が書いても同じ物が発動する。要は共通文字だ。それだって作られた当初は一部の人間にしか利用できなかっただろうな。周りに周知して賛同を得られたから魔法文字として確立できただけだ。逆に言えば周知されなくても本人だけが分かっていればいいってこった。な、魔法なんて簡単だろ」
何処が簡単なのよ。
でもどうすればいいかは分かったわ。つまりこういうことよ。氷壁はこう書くと決めればいいってこと!
「………………なんで発動しないのよっ!」
「っはっはっはっは。1発で出来たらそりゃ天才か天然のどっちかだ。俺たち凡人は積み重ねるしか無い」
「むう…………」
「自分勝手な文字じゃダメだ。ちゃんと魔法を思いやれ。そうすれば魔法も答えてくれる」
魔法を思いやれ……ね。父さんは一人部屋に籠もってずっと魔法を思いやっていたのかな。
その100分の1でもいいから母さんに向けてほしかった……なんて、贅沢かな。
次回、黒歴史はこうして作られた