第1話 モナカたちの日常
魔神たちとの戦いを終えてトレイシーさんの元に帰ってきてからは、傷を治療しながらのんびりと過ごしている。
フブキの体調も少しずつ回復していて、短い距離だけど散歩に行けるようになった。
鈴ちゃんは帰ってきてからもずっとアトモス号の水槽に浸かっている。
ベッドに寝かせてしっかり食事を取らせたいのだが、ナームコが言うにはこの方が回復が早いらしい。
寂しくないように顔を見に行っているが、まだまだ辛いのか無理に笑顔を作って微笑んでくれる。
話すのも体力を使うから少し言葉を交わすだけで後は鈴ちゃんが寝るまで側に居るだけにしている。
というか、水槽の中だから触れ合うことも出来ず、側に居てあげることしか出来ないのが心苦しい。
後は特にすることも無く、エイルの部屋でボーッとしている。
中央からしつこくメールが届くけど、未読無視を続けている。
デイビーを迎えに行かなきゃいけないのは分かっているが、鈴ちゃんが全快するまで待たせておけばいい。
時子の携帯が壊されたと聞いたときには焦ったが、携帯に機種変して事無きを得ていた。
エイルが拾って俺に渡してきたとき、タイムが持っててと言ったのはこのときのため?
本当にタイムには助けられてばかりだ。
なのに「今後のサポートはタイムじゃなくてルイエがやるって言ったらどうする?」とか言い出したときは意味が分からなかった。
でも考えてみればタイムだっていずれは前のマスターのところへ帰してあげなければならない。
そうなったらルイエにサポートしてもらうしかないかも知れない。嫌がるだろうから無理だろうけど。
本音を言えばタイム以外なんて考えられない。
でもそんな我が儘は言えないからな。
時子だっていずれは先輩の元に……いや、先輩は俺なんだっけ?
真弓先輩……か。
そんなわけないと思うし、そもそも管理者が言うには真弓じゃなくてクーヤらしいから名前が違う。だから俺が先輩だなんてことはあるはずがない。
状況証拠も不確実で決定打に欠ける。むしろ否定要素の方が多いくらいだ。
それでもエイルとアニカに加えて時子まで俺が先輩だと言い出した。
俺一人否定しても押し切られてしまう。せめて名前だけでも一致していれば可能性があると思えたのに。
タイムはなにも言えない。否定も肯定も出来ない。
俺に関して管理者から禁止されているからだ。裏を返せば俺の正体を知っている……とも取れるけど。
でもあのとき……結界外で魔物の顔を見たとき、時子と一緒に俺を拒絶した。
魔物の顔は先輩とソックリだったと時子は言う。
それに反応したってことは、タイムも先輩の顔を知っているということ。
いつ、何処で知ったんだ?
…………はぁ。エイルの部屋で一人ボーッとしているとそんなことばかり考えてしまう。
俺は本当に先輩なのか。肯定と否定が入り乱れて頭の中をせめぎ合って止まない。
そして時子とタイムの関係性。本当は本当に双子だったという可能性……それとも…………同一…………
だとしたらマスターは先輩のことで、それはつまり俺………………
はっ、なに都合のいいことを考えているんだ。
時子は生きて転移してきている。そんなはずは無い。
考えても仕方がない。なのにまた考えてしまう。堂々巡りだ。
鍛錬している間だけは忘れていられるので、無駄に身体を動かしまくっている。
鍛錬といえばタイムが作った脱出ゲームのチュートリアルを漸くクリアすることが出来た。
本編は塔の最上階を目指すゲームになっている。
モンスターの徘徊する廊下をくぐり抜け、上階へ上がる扉の鍵を探すというものだ。
階を増すごとにモンスターは強くなるし、トラップも増えていくし、条件を満たさないと鍵が現れない仕組みまで出てきた。
しかもノーヒント。どんなクソゲーだ。
タイムが言うにはヒントに気づいてないだけらしい。
分かりにくいヒントはノーヒントと変わらないって。
時子が家事全般をこなしているので、トレイシーさんは工房に集中している。
とはいえ、エイルにしかこなせない物もある。
初めは断っていたらしいが、ナームコが手伝うようになってまた受けるようになったらしい。
ナームコも役に立っているんだな。
アニカはというと、鎌鼬たちと契約するために修行をしているらしい。
既に契約済みだったのでは……と思ったのだが、本契約は出来ていなかったとか。
しかもそれを精霊自身が自覚していなかったというから意味が分からない。
でも、だからこそ火鳥はアニカのことをアニカ様と名前で呼べるとかなんとか。
よく分からん。
次回、エイルのターン