転生したらダンゴムシだった件、どうやら俺以外にも転生者がいるみたいだったので、うまくコミュニケーションをとって強くなった話 その8
マグナ達一行が悪戦苦闘する中、一人の男が静観していた。
アオだ。
孤独なるキャンプ地から、彼の視線は炎が猛り狂う森の方角を見つめる。
その瞳に映る炎は、祭りの夜に打ち上げた花火を見上げる無邪気な子供の目に良く似ていた。
その静寂を、激しい衝撃音が3度裂いた。
それはまるで古の戦場で砲弾が地面に打ち込まれるような、低い轟音だった。
アオの瞳がぴくりと動き、アオは轟音のした方角へとゆっくりと向かった。
彼の足元には、まだ温かさを保つ焚火が静かに揺らめいていた。
アオがその場所に辿り着いた時、蛇のようにうねっていた森を焼く炎は弱まり、その跡地には炭化した木々が並んでいた。
その表面からは、戦いの激しさと、その結果生じた熱を物語るように、微かな煙が立ち上っていた。
黒く炭化した木々の隙間からアオは見た。
それは3匹の巨大なミツガシラだった。
彼らの足元には、無防備に地面に倒れている二人の少女の姿があった。
それは、先ほど一緒に食事をした無邪気に笑う少女たち、ユリカと、ヴァレリアに他ならなかった。
だが、アオの視線は、地に伏す彼女達よりも、ミツガシラにひきつけられていたのだ。
ミツガシラを見つけたアオの口元に、にっこりとした笑みが浮かんだ。
彼がここまで足を運んだ理由、その目的が目の前にいたからに他ならなかった。
それは彼の瞳に光る期待感からも明らかだった。
そして、アオはゆっくりと木々の間を縫って3匹のミツガシラの前まで歩いていた。
その姿にミツガシラが不穏にざわめく。
――ギー ギギギギギ ギ , ギー ギー ギーギー ギ ギ , ギーギギ ギギ ギーギギ ギギ ギギーギギ ギギ ギ ギー
――ギギ , ギーギギ ギーギー ギー ギー , ギギギ ギギギギギ ギーギー ギーギギ , ギーギギ ギ ギーギー ギー
――ギーギギ ギーギー ギーギギ ギギ , ギ ギー , ギーギギ ギギ
冷徹な眼差しでアオを見つめるミツガシラ、その中の1匹がアオに襲い掛かった。
しかし、アオは完全に自身の力を信じているかのような冷静さでその場を微動だにしなかった。
その時だった、アオの後方から、高速で何かが飛んできたのだ。
それがアオの頭上を駆け抜け、ミツガシラに向けて進む瞬間、その正体が明らかになった。
それは、一見するとただの木片だが、その形状と質感から、夕飯時にマグナがミツガシラを解体するさいにつかったナイフの柄とわかる。
その柄は、空中で一瞬、光を放ちつつミツガシラの体に直撃した。刹那。
「イグニッション!!」
アオの背後から響き渡ったその声と同時に、ナイフの柄は煌々と光を放ち、ミツガシラの表面で強烈な爆発を起こした。
その衝撃で飛びかかってきたミツガシラは後退し、元の地点へと強制的に落とされた。
「おじさんッ!! 俺たちを追ってきたのなら、そのまま逃げてくれ。俺はあんたを守れない……」
アオの身を案じて放たれた言葉にアオはゆっくりと振り返る。
そこには、傷だらけのマグナの姿があった。
そして、そのマグナを見つめつつ、アオはまるで何か思案するような表情を浮かべつつ口を開くのだった。
「君のその魔法というのは、物体に爆破の力を宿す魔法、さしずめ"イグニッション!!"という掛け声が着火の合図なのだろう。腑に落ちないところもあるが――」
マグナがアオの言葉を遮る。
「おじさん。何をのんきなことを言っているんだ。さっきの言葉が聞こえなかったっていうのかよッ!! 冒険者でもないあんたが、ここにいられたら迷惑なんだッ!!」
「ハハハハハ――。少年、若気の至りという言葉を知っているかね?」
「なんだって?」
「人を見た目で判断するなどと、実に愚かなことだ。」
「何を言っているんだ――」
しかし、マグナの言葉を待たずして、額に亀裂の入ったミツガシラが不穏な鳴き声を発した。
――ギーギギ ギギ ギギーギギ ギギーギギ , ギ ギギギギ ギ , ギギー ギーギー ギー , ギギ ギー ギギーギ ギギギ ギー
その声を合図に、もう一体のミツガシラが勢いよくマグナに向かって飛びかかった。
そのままアオの横を素通りして行くミツガシラの巨体を、アオはほんのりと手で撫でる。
その瞬間、ミツガシラの勢いは一気に消えさり、2つに分かれたミツガシラの胴体が地面に落ちていった。
「すまなかったな、少年よ。私の用事に付き合わせてしまって。」
「はっ、えっ!?」
「訳あって探していたのだ異質なるものを。」
アオはそう言って、漆黒のスーツの襟を整え、ネクタイをきっちりと締め直した。
「生まれ変わって尚、人に害なす者たちよ。覚悟するが良い。」
アオのその言葉に仲間の命が消失したことで沈黙していたミツガシラ達が唸りをあげた。
次回更新は週明けの7月10日です。
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