転生したらダンゴムシだった件、どうやら俺以外にも転生者がいるみたいだったので、うまくコミュニケーションをとって強くなった話 その3
炎が枯れ木を揺らめかせ、その光が夜の森を描き出す。
やがて四人は、燃え上がる火を中心に円座を組んでいた。
「さて、焼き始めるとしようかな。」
マグナはそう言って、ミツガシラを炎へ差し出した。
その身体は硬い外骨格に覆われ、火の光を反射して赤く輝いた。
「ヴァレリア、いい香りだね。」
ユリカが微笑みながら言うと、ヴァレリアが頬を染めながらうなずいた。
「もうそろそろいいかな。」
「ダメダメッ!! 焼きが浅いとお腹壊すわよ。」
じっくりと炎に焼かれるミツガシラ。炎が甲虫の身体を焦がし、それが放つ香ばしい香りが空気を満たす。
アオはこの匂いを知っていた、カニが焼ける香ばしい匂いだ。
その匂いにアオの腹が、グルグルと動き出す。
一通り全身が赤くなり、岩のように丸くなったミツガシラを見て、マグナはナイフを取り出すと、ミツガシラをきれいに四等分してみせた。
そして、その中の1つを手に取ると小さく「いただきます」とつぶやき、口の中に放り入れた。
それを見て、ユリカ、ヴァレリアが順に続く。
最後に残ったアオ。
先ほどまでダンゴムシを思わせる動きで微動だにしなかった甲虫、その姿からは想像もつかないほど誘惑的な香りを漂わせる甲虫。
それに手を伸ばすことに、アオはどこか躊躇していた。
しかし、隣で甲虫を口に運ぶ彼らの喜びに満ちた顔を見て、ついに誘惑の魔の手に負け、アオは一切れのミツガシラをそっと手に取り口へと運ぶ。
その瞬間、口の中に広がったのは、予想を遥かに超える柔らかさと深い旨みだった。
「やっぱりこれ、すごく美味しいね!」
ユリカが口元に残るミツガシラの旨味を噛みしめながら言った。
そして、その言葉に呼応するようにアオが口を開く。
「――なかなかに美味。陸上の生物でこれほど旨いものを食べられるとはな。」
「おじさん、海のことを知っているのか。うらやましいぜ。」
「確かに、ここら辺は山ばかりだもんね。」
「ところでさぁ、マグナと親しくしてたから、特に突っ込まなかったんだけどさ。このおじさん誰?」
ヴァレリアの問いは至極当然のものだった。
「さぁ、知らない。道に迷ってたから、手助けしてただけさ。」
「手助けって、具体的になんですか?」
「それがよくわからないんだよな。探している、探しているっていうから。きっと仲間とはぐれたんじゃない。」
「おじさんは、誰を探しているんですか?」
ユリカが無邪気に問いかけた。
アオはその質問への返答に困っていた。
彼らに対して、冥界の事情である、悪性化した転生者の討伐と説明しても理解してもらえるとは思えない。
そんな思いから、アオはさまざまな選択肢を考慮した末、3人にこう言った。
「ちょっとしたトラブルでね。3人組を探しているんだ。」
「あー、もう。それじゃあ何もわからないわよ!」
「落ち着け、ヴァレリア。」
「あんたも、よくこんな得たいのしれない格好のおじさんを拾ってこれるわね。」
ヴァレリアは漆黒のフォーマルなスーツ姿のアオを指さしながらそう言った。
「……不審者とな?」
「大丈夫だって、見た目も盗賊じゃなさそうだしさ。きっと大道芸人かなんかで仲間を探しているだけだと思うんだよね。」
「……芸人……だと。」
自分の服装を揶揄されたことはショックだったが、アオは彼らの素性に興味を持ち、こう問い返した。
「君たちは何故こんな夜中に森を歩き回っているのかね?」
「おじさん、見ての通りだろ。俺たちは冒険者なんだぜ!!」
「まだ駆け出しですけどね。」
ユリカが微笑みながら言った。
どうやら、このN768次元というところには冒険者という職業が存在するようだ。
冒険者とは密林を彷徨い、未知のダンジョンを探索し、モンスターと戦う。
一部ではただの好奇心から始めた者もいれば、名声や富を追い求める者、または単純に冒険という名の下で刺激を求める者もいる。
彼らは自由に生き、自由に死ぬ。そして何より、彼らは人々から尊敬と羨望の眼差しを浴びる存在だ。
そして、奇異なことに、彼らを冒険者たらしめる強力な魔法が存在する。
その事実はアオを驚嘆させていた。
どうやらこの次元には冥界とは別の何かの力が働いているようだった。
狼と雨公開中
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1話ではこの主人公のアオも登場します。
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