警備員室
タケシが焦燥に駆られ、勢いよく扉を押し開けようとするが、ドアノブは固くロックされている。
「タケシ君、待ってください。ここはカードキーが必要です」
オオタが息を切らしながら制し、懐から一枚のカードを取り出した。
「カードキー……?」
「心配ありません。私、持っていますから」
その言葉に、アオキが不思議そうに目を細めた。
「そのキーは、どこから?」
静かな問いに、オオタは一瞬言葉を詰まらせ、自嘲するように口元を歪めた。
「……たまたま、拾ったんです。面無しに変わった警備員の胸ポケットから――」
オオタは、アオキの射抜くような視線から逃れるように、一度床に目を落としすと、言葉を続けた。
「防火壁を落とす前は、皆、自力で戦っていましたから……。運よく押し倒された相手が警備員で、私は近くに隠れていて――まあ、くすねた、というわけです。その後、ハセガワさんと相談して、この鍵を前提に“防火壁を落とす”方針にしたんですよ」
そう言ってオオタはカードをリーダーに通す。
電子音が鳴るまでのコンマ数秒が、永遠のように感じられた。
カチリ、と小さな解錠音が返る。
重い扉がわずかに開き、室内の青白い光と冷たい空気が漏れ出した。
壁一面に並ぶ監視モニターの光が、くたびれた中年の男と、疲弊しきった少年の顔を無機質に照らし出す。
「着いた……着きました……!」
オオタは操作盤の前に崩れ落ちるように座り込んだ。
無数に並ぶモニターの一つが、フードコートの惨状を映し出していた。
ハセガワたちが買い物用のカートや机で作った即席のバリケードが、面無しの群れの圧力で軋み、今にも押し潰されそうだ。
群れに引きずり込まれそうになるミオの、声なき絶叫がモニター越しに伝わってくる。
バリケードの内側で、マキはカートの持ち手を白くなるほど握りしめ、プラスチック製のトレイを盾のように掲げて耐えていた。
「母ちゃん……!」
タケシの叫びが、狭い室内に響く。
オオタは頷き、汗で滑る指で操作盤のコンソールを叩き始めた。
だが、彼の指がふと止まる。
モニターには、防火壁が降りるはずのラインの内側にも、“面無し”が数体入り込んでいるのが見えた。このまま降ろせば、彼らをハセガワたちと一緒に閉じ込めてしまうことになる。
「ダメだ……このままでは……。“面無し”まで中に閉じ込めてしまう。これじゃあ、即席のコロッセオですよ」
オオタが絶望に顔を上げた。
その視線の先に、アオキの静かな横顔があった。
アオキはモニターに映る地獄絵図を、まるで他人事のように冷静に見つめていたが、やがて短く息を吐くと、オオタに向き直った。
「仕方ありません。私は戻ります。10秒経ったら、壁を落としてください」
「……えッ!?」
オオタとタケシが、信じられないという顔でアオキを見る。
十秒。三人で十五分かけてたどり着いたこの場所から十秒でアオキは十秒で戻る言ったのだ。
それは物理法則を無視した、あまりに非現実的な時間だった。
「無茶です! あなた一人だって、今からじゃ間に合いません!」
オオタが叫ぶ。
だが、アオキは有無を言わせぬ静かな迫力で、短く告げた。
「いいえ、間に合わせます」
そう言い残すと、アオキは踵を返し、ためらいなく扉を開けて再び暗闇の中へと消えていった。
残された部屋に、オオタの動揺した呼吸と、モニターから流れる無音の地獄だけが響く。
タケシは、アオキが消えた暗い通路の先を、祈るように見つめることしかできなかった。
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