エルシア号船内<<救護室>>
――エルシア号船内<<救護室>>
救護室の扉が閉まると、リナは部屋を見渡した。
エルシア号の救護室は、外観の豪華さこそ抑えられているものの、最新鋭の医療設備が隅々にまで行き届いている。
壁際には地上の一流病院にも匹敵する各種医療機器が整然と並び、その冷たい金属光沢が無機質な輝きを放っていた。
おそらくこの船の持ち主である富豪は、自身の命と健康を何よりも重視していたのだろう。
部屋の一角に据えられたカプセル型の医療装置を見つけ、リナは思わず息を呑んだ。
患者の細胞核からデータを抽出し、必要な生体パーツを生成して治療に用いるという究極のマシンだ。しかしその使用には船医の生体認証が必要で、リナ自身も操作方法を知らない。
宝の持ち腐れとはこのことだろう。
最新技術の山に囲まれてなお、自分の手でできる処置は限られている
——リナは歯噛みする思いだった。
気を取り直したリナは、備え付けの医薬品キットから基本的な診断ツールを取り出した。
彼女はアオに向き直ると、その顔色を改めて確認する。
「それでは失礼しますね……」
リナがアオの額に小型スキャナーをかざそうとすると、アオは軽くため息をついて首を横に振った。
「あの……どうやら誤解をされているようだ。私は至って健康でしてね、どこも悪いところはありませんよ。」
「強がらないでください。顔、真っ青ですよ?」
リナは心配そうに覗き込む。アオは困ったように笑った。
もちろん体調は万全だが、この状況では説明のしようもない。
「ハハ……では少し横になって休ませてもらえますかな。」
アオが苦笑すると、リナはホッとした表情で頷いた。
だが彼はすぐに付け加える
。「……できれば何か食べるものをいただけないでしょうか? それに、喉が渇いていてね。」
確かにアオの様子からは、喉の渇きが見て取れた。顔色は死人のように蒼白で、肌からは潤いが失われ、乾いた質感が目立っていた。
それは彼の平時の姿なのだが、今の彼女にそれを知るすべはない。
「何か食べ物ですね?……あっ、ありますよ!」
リナは自分のポーチを探り、小さなパッケージを取り出した。
「非常食代わりに持ってきたんです。宇宙食仕様のたい焼きですけど……よかったらどうぞ。」
手渡された包装を開くと、中には鯛を模した焼き菓子が入っていた。
アオは微笑んでそれを二つに割る。
「ありがとう。君も半分いかがかな?」
「えっ、いいんですか?」
「あぁ、キミの持ち物だ」
「それじゃぁ……。頭のほうをいただきますね!」
リナが嬉しそうに答え、アオは割ったたい焼きの頭側を彼女に手渡した。
二人はそれぞれのかけらを口に運ぶ。
乾燥した生地がポリポリと音を立て、わずかな甘みが口内に広がった。
しかし次の瞬間、アオは喉につかえる感覚に襲われ、激しく咳き込んだ。
生地が水分を一気に吸ってしまい、喉に貼りついたのだ。
「あ、大丈夫ですか!? 水ですよね、ちょっと待っててください!」
リナは慌ててあたりを見回した。
しかしシンクもウォーターサーバーも見当たらない。
この救護室では高度な点滴設備はあれど、飲料水のことなど頭になかったのだろう。
リナはすぐさま自分の携行品を探った。
だが救難艇から持ってきた医療キットにも水は入っていない。
出発前に確かに忍ばせたはずなのに……。
「おかしいな。準備の時に水のパックを入れたと思ったんだけどな。」
リナは首を傾げたが、目の前でむせているアオに気づき、すぐに考えを切り替えた。
「すみません、すぐ飲み物を探してきます! 少しここで待っていてください!」
そう言うや否や、リナは救護室のドアを開け、廊下へ飛び出していった。
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