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遭遇

時を同じくして、エルシア号の船内を一瞬の閃光が走る。

そして、その切れ目から一人の男が船内へと足を踏み入れていた。

アオが足を踏み入れた通路には、まるで地上の五つ星ホテルを思わせる豪奢な内装が広がっている。


深紅のタイルが敷き詰められた床には重力発生装置が組み込まれており、おかげで宇宙空間にいることを忘れるほど足元は安定していた。

壁際に等間隔で並ぶ椅子は最高級のレザーで覆われ、その手触りの良さは地上の一流ホテルにも引けを取らないものだろう。

通路の突き当たりには壁一面の大型ディスプレイが設置され、そこには遥か遠くの地球と思しき青い空と緑の大地、そして太陽の光が映し出されている。

宇宙船の中にいるはずなのに、まるで美しい大気圏内の風景を眺めているかのような錯覚に陥るほどだった。


だが、その豪華さがかえって不気味さを際立たせてもいた。

華麗な内装に人影ひとつなく、ただ人工的な空調の微かな唸りだけが耳に届く。

温かなライトに照らされる床と壁には、一人分の足跡さえ見当たらない。

それはまるで、時間だけが切り取られた舞台のように、生の気配が一切感じられない空間だった。


アオはひとり、その不気味な船内を慎重に進んでいく。

目的はただ一つ、この船に潜む転生生物を見つけ出すこと。

彼は目を凝らし、耳を澄まして異常の兆候を探っていた。


すると、首筋に刺すような奇妙な感覚が走った。

アオは足を止め、静かに振り返る。

視線の先、隔壁の大きな扉がゆっくりと開いていくのが見えた。

やがてその隙間から姿を現したのは、宇宙服に身を包んだ三人の人間だった。


アオが漆黒のスーツ姿で立っているのを目にして、三人は一瞬だけ互いに顔を見合わせる。

そして、宇宙服のヘルメットを外し始めたのだ。

船内に呼吸可能な大気があると判断したのだろう。

ヘルメットを脱いだ彼らの顔が露わになる。


「……ああ、よかった、生存者だわ!」


先頭に立っていた女性が安堵の笑みを浮かべる。

短髪で精悍な顔立ちのその女性は、ハルと名乗った。


「私は救助隊のハル。あなた達の船から発せられた救難信号を受けて来たの。」


ハルはゆっくりとアオに歩み寄り、真摯な眼差しを向けた。

続いて、後ろに控えていた金髪の女性が柔らかな声をかける。


「私はリナ。医療担当です。もし具合が悪かったら遠慮なく言ってくださいね。」


幼さの残る顔に優しい瞳をしたリナが自己紹介する。


「すげぇなこの船……重力発生装置付きか。噂通り金持ちの船は格が違うぜ。」


ジョーは短く刈った髪の逞しい男性で、その口調には好奇心と驚きが滲んでいた。


「……どうやら皆さんは救助隊員、ということですか。私は……」

「他の乗組員は無事なんですか?」


リナが身を乗り出すように尋ねた。

問いかけられたアオは一瞬答えに詰まる。

彼がこの船に来たのはほんの数分前であり、当然クルーたちの安否など把握していない。

だが、余計な混乱を避けるため、彼はさも自分も乗組員であるかのように装うことにした。


「申し訳ありません。私も先ほど目覚めたばかりで……それから船内をできる限り歩いてみましたが、どなたの姿も見当たりませんでした。」


アオの説明に、ハルたちは顔を強張らせる。


「そう……。」


ハルが沈痛な面持ちで呟いた。

広い船内に誰一人いないという事実の異常さに、誰もが言葉を失う。

そんなハルの代わりにジョーが口を開いた。


「なあ、あんたが救難信号を発した張本人ってわけじゃないんだよな?」


彼は疑わしげに目を細め、アオを探る。


「いえ、違います。私が意識を取り戻した時には、すでに救難信号が発信されていたようです。」


アオは淡々と否定した。


――じゃぁ……。だれが……。


その答えを聞き、場の空気が張り詰める。


「……ジョー、とにかくブリッジへ行きましょう。何か手がかりが見つかるかもしれないわ。」


ハルは冷静にジョーへ、指示を与えた。

その声は船内の静まり返った空間によく響く。

ジョーも「了解」と頷いた。


ハルは一度アオに視線を戻すと、アオの顔色が青白く冴えないことに気づく。


「……あなた、顔色が悪いわ。大丈夫?」


ハルが心配げに尋ねると、アオは言葉に詰まった様子。

もちろん彼は健康そのものだが、初対面の彼らたちに冥界の使いで来たと正体を明かすわけにはいかない。そんな口ごもるアオの姿をみて一層具合が悪いと映ったのだろう。

ハルはすぐに隣に立つリナへ声をかけた。


「リナ、救護室でこの人の容態を見てあげて。無理をさせるのも悪いし、ブリッジは私達で確認してくるわ。」

「あ、はい……分かりました!」


リナは頷き、アオに歩み寄った。


ハルとジョーは警戒を怠らぬよう周囲に目を配りつつ、深い船内へと通じる通路へ進んでいく。

艶やかな曲線を描く廊下に二人の後ろ姿が消えていった。


残されたアオとリナが顔を見合わせる。

リナは少し困ったように微笑んだ。


「それじゃあ救護室に行きましょう。場所は分かりますか?」

「ええ、先ほど一通り船内を確認した際に見つけました。こちらです。」


アオが頷き、ハルたちとは逆の方向の通路を指し示した。二人は足早に歩き出す。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


もし少しでも内容が面白かった、続きが気になると感じていただけましたら、ブックマークや、画面下部の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に変えていただければと思います。


ブックマークや星の評価は本当に励みになります!


どんな小さな応援も感謝します、頂いた分だけ作品で返せるように引き続き努力していきます。


これからもよろしくお願いします。

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