トライロバイト⑩
>>>>>>>>>転送中
アオはマグナ達の窮地を救い、その足で冥界に戻っていた。
そして、アオはエンマの館の大きな扉の前で立ち止まり、手に載せた皿を強く握りしめて立ち止まると、深い息を一つ吸い込み、ゆっくりと扉を二度ノックした。
「エンマ様、アオです。ただいま戻りました。」
そう静かに告げる声に答えるように、中よりエンマの声が廊下へ響き渡る。
「ご苦労だった、入れ――」
アオはその声をきくやいなや、扉をゆっくりと押して部屋の中へ入った。
部屋の中心の作業机にはエンマが座っており、夜の明かりに照らされる彼女の髪は、闇夜に散りばめられた星のように輝いていた。
エンマは顔立ちの美しい情勢だ、それでいて厳格な表情を浮かべており、深淵を覗くようなその瞳には深い知識と理解が宿っているようだった。
アオはその姿に感嘆しながらエンマの前まで歩み寄り、皿をそっと机に置こうとした。
だが、エンマの机に出されていた1枚のスケッチをその目にとらえ一言呟く。
「おや、これは。ミツガシラ……。」
「そうか、確か768次元へ行っていたそうだな。良く似ているが、これはミツガシラではない。トライロバイト(三葉虫)だ。」
そう言ってエンマは説明をし始めた。
「トライロバイトは、カンブリア紀の古生物で、現世では絶滅してしまっている。初期の節足動物でもあり、その特異な姿から古生物学者たちを驚かせてきたよ。」
「それはどんな生き物だったのですかな?」
先ほど退治した甲虫の習性に興味を持ったのだろう、アオが好奇心を宿す子供のような目でエンマに尋ねた。
「トライロバイトは強固な外骨格を持ち、その多数の複眼は彼らに広範な視野を提供していた。その特異な体型は、餌を捕らえ、口へと運んでいたんだ。その大きさは種によって差があるが、大型のものでは体長が70センチメートルにも達する。」
次第にエンマの説明が熱を帯びてくると、微笑みを浮かべながら補足を加えた。
「トライロバイト、この名前はギリシャ語で"三つの石"を意味する。その名の通り、体は三つの部分、頭部、胴部、そして尾部から成り立っていたんだ。そのユニークな形状から、初めて発見されたときには現世の人々を驚かせたことだろう。」
「エンマ様、ところで、トライロバイトはどんな食性をしていたのですかな?」
アオが興味津々に問うと、エンマは再びスケッチに目を落とした。
「おっ、気になるか。いいだろう、教えてやろう。」
そしてエンマは満足そうに微笑むと、話始めた。
「トライロバイトは主に海底生活をしていたと考えられている。その食性は、種によって多少の違いがあるが、基本的には捕食性または腐肉食性だったとされているよ。」
そう言いながら、エンマは指をスケッチのトライロバイトの口の部分に移動させた。
「彼らの口器は鋏角類のそれに似ており、それを使って獲物を捕らえては食べていた。小型の無脊椎動物や海底の生物、時には他のトライロバイトさえも獲物としただろう。」
エンマは少し間をおいてから、付け加えた
「そして、トライロバイトの中には、海底の泥や砂の中に潜って微生物や有機物を食べる底生性の種も存在したんだ。このような種は、特に大きな口部を持ち、口の周囲にある特別な触肢を使って食物を口へと運んでいたよ。」
そこまで聞いて、アオは満足そうにうなずいた。
そんな姿を見つめるエンマ、エンマの視線がアオの片手に乗せられた皿へと移る。
「その皿はなんだ? 夜食か?」
「ああ、失敬。768次元より持ってまいりました。」
そう言って、アオは手に持つ皿をエンマの前に置いた。
そこには高温で焼かれ身を赤くした拳ほどに大きいミツガシラの姿があった。
「げっ、ダンゴムシ。でかい。」
「ミツガシラのサワークリーム添えです。ご安心を、今回はコックに作らせましたので。」
アオのその言葉に、エンマは皿の上のミツガシラをフォークで小さく突いていた。
「これ、食べれるのか?」
「まぁ、騙されたと思って食っていただければ……」
アオのその言葉を信用したのだろう、エンマは小さく突いていたフォークでミツガシラを刺すと目じりに皺を作るほど強く目を瞑りながら、ゆっくりと口へはこんだ。
そして、1噛みした瞬間、口の中に広がる旨味と共に目を見開くのだった。
「美味しい!!」
その言葉に、アオは満足な笑みを浮かべた。




