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トライロバイト⑧

「すまなかったな、少年よ。私の用事に付き合わせてしまって。」

「はっ、えっ!?」

「訳あって探していたのだ異質なるものを。」

 アオはそう言って、漆黒のスーツの襟を整え、ネクタイをきっちりと締め直した。

「生まれ変わって尚、人に害なす者たちよ。覚悟するが良い。」

 アオのその言葉に仲間の命が消失したことで沈黙していたミツガシラ達がうなる。


――ギギギ ギーギー ギーギー ギ ギー ギギギギギ ギギ ギーギー ギー , ギギギ ギーギギ ギーギ ギーギー ギーギー ギー , ギギギギギ ギ ギーギ ギ

――ギーギ ギ ギー ギーギ ギ ギー ギ

――ギーギ ギーギギ ギー , ギギ , ギーギ ギ ギーギギ ギーギギ ギギギ ギ


 それぞれの個体がうなる言葉を発し、残り2体のミツガシラが激しく動き出した。

 額に深い亀裂が走ったミツガシラはうなり声を上げつつ、力強く地を蹴り、アオとの距離を離した。

 それは戦略的な撤退のように感じられた。


 一方、残り1体のミツガシラは、あまりにもあっけなく仲間が引き裂かれた事実に震えつつも、激情に駆られてアオに飛び掛かった。

 その巨大な体躯は、地面が強烈に震えるほどの力を秘め、その姿は無機的な岩石が命を宿し、怒りを露わにしたかのようだった。

「おじさん。危ないッ!!」

 後ろからマグナの危険を伝える声が鳴り響く。

 それでもアオは、その猛烈な勢いに臆することなく、細身ながらも確かな力でその岩石のような巨体を見事に両手で受け止めた。

 その手から滲み出る力は、剛と柔を見事に調和させたような不思議な感覚をまとっていた。

「食生を返るほどに考えたのだろう。モールス信号というやつか。仲間同士でコミュニケーションを取り、ここまで数を増やした。そしてその力を持って村々を襲いその巨体を手に入れたということだな。」


 アオは、自身の細身な体躯とは裏腹に、巨大なミツガシラを軽々と持ち上げ、そのまま空中へと放り投げた。

 その舞台は空中へ移り、無防備なまま宙を舞うミツガシラの姿がそこにあった。


「残念だが、君たちの冒険はここでおしまいだ。」


 地上に立つアオは、断罪を告げる言葉を吐き捨て、宙を舞うミツガシラの落下軌道を静かに見つめていた。

 その瞳は、時がゆっくり進んでいるかのような、深淵に満ちた静寂を映していた。

 そして、アオが地面に一瞬力をこめた足を、瞬時に振り上げた瞬間、世界は震動した。

 その蹴りは、音速を超える速度で放たれ、衝撃波が広がった。

 その衝撃波は、空気を圧縮し、耳鳴りと共に強烈な空気の爆発を発生させた。

 音の壁を突破する瞬間の、空気が裂けるような音と、視界が霞むような振動が周囲に広がった。

 その強烈なつま先の直撃を受けたミツガシラの巨体はその圧倒的な圧力により急速に加速し、弾丸のように空を舞う。

 そして、遠くに逃げていたもう一体のミツガシラへと直進した。

 自身が加速したミツガシラの巨体が逃げていたミツガシラと衝突する光景は、まるで互いに磁石の ように引き合ったかのようだった。

 その衝突の結果、二体のミツガシラは破裂するように四散し、その姿は無残にも共倒れとなり、地面に散っていった。


 アオは散らばったミツガシラの残骸を静かに見つめ、顔に微かな哀れみを浮かべる。

「……おじさん、……格闘家だったのか。」

 震えるような声がアオの背後から聞こえてきた。

 その声にアオはゆっくりと振り返る。

 そこには、傷だらけの若き戦士マグナがたっており、マグナは悔しそうな表情を浮かべ、地面に倒れる2人の少女を見つめていた。

「彼女達は大丈夫かね?」

 その言葉を聞いて、マグナは座り込むと、2人の少女の体を軽く触れ、傷の具合を確かめていった。

 結果は厳しかった。

 ヴァレリアはかろうじて言葉を発することができたものの、その声には苦痛と疲労が滲んでいた。

 それに比べて、ユリカは既に意識を失っており、話をかけても反応はなかった。

「……おじさんも、人が悪いぜ。強いなら強いと言ってくれればよかったのに。……そうすればこんなことには。」

「同行を願い出たが断られてしまってな。」

 その言葉にマグナは堅く口を閉ざす、アオの力量を見誤った自分の過ちを痛感しているようだった。

「まぁ、少年には1食の恩もある。」

 アオはそう言って、ユリカの前に片膝を落とすと、両手を前に出した。

「……ちょっと、……何をする気……なの……。」

 不穏なその光景にヴァレリアが力なくつぶやく。

「なぁに、ちょっとした恩返しだ。彼女の時を少し戻そう。」

 アオ、彼の能力は、理解を超越した領域、時間と空間の操作にあった。

 普通の存在にとって、時間は1方向にしか進まず、空間は身体を移動しなければ超えることができない壁。

 だがアオにとっては、それらは単なるパズルのピースで、アオはそれらを自由自在に操って物事を進行させることができた。

 そして、その力を利用して、アオはユリカの身体の時間を、傷つく前の状態に戻すことを考えていた。

 この奇跡的な秘術は、エンマよりアオに与えられた唯一無二の能力であり、アオが ”時間と空間の超越者” であることを象徴していた。


 アオの言葉の通り、ユリカの体には、逆行する時間の力が流れ込み始めた。

 その逆行する力によって、ユリカの体の傷はみるみるうちに消えていく。

 それはまるで映像を巻き戻すように、時を遡るかのような不思議な光景だった。


 その結果、ユリカの意識が戻り、彼女は驚いたように目を覚ました。

 そして、まるで何もなかったかのように、けろっとした表情で起き上がったのだ。

「……あれっ、なんでおじさんが? 私寝ちゃってたの?」

「……ユリカ。」

 ヴァレリアはそう言って、這うようにユリカの前まで来ると、安堵の涙を流しながら抱き着いた。

「エエッ!! ヴァレリアさん、何があったんですかッ!! 酷いキズじゃないですかッ――」

 その後、ユリカはヴァレリアの傷をお得意の治癒魔法で治していく。

 やがてユリカの治療魔法により、ヴァレリアがやっと歩けようになったその時、皆はアオがいない事実に気づく。

 そして、それぞれがアオの姿を探すが、結局アオの姿は見つからなかった。

 まるで幽霊のように。

「それにしても、あおのおじさん何だったんだろう、鬼神のように強くって、回復魔法まで無詠唱で使えるなんて。」

「……まさか伝説に伝わる。……賢者。」

 ヴァレリアが神妙な面持ちで言った。


――ガリア地方に伝わる黒衣の大賢者の伝説はここから始まった!!


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