Extra Stage "分断"
『なかなかしぶとく生き残っているようですねえ』
「そ、その声は神輝か!」
『いかにも。2週間経ってもまだ正気で居られるとはね。実力の割りに案外タフな精神を持っている』
「俺は穴冥3900を出したわけじゃないってのはもう分かっているんだろ!?早くここから出してくれ!」
『その威勢の良さは一体いつまで続くのか。今の実力ではじきに飢えで動けなくなるか、狂うか、どちらかですよ』
「俺の話が聞こえてねえのかよ!」
『今日は頑張ってる君にプレゼントをあげようかと思いましてね。これです。フフフ・・・』
というと突然俺の目の前に小瓶に入った錠剤が落ちてきた。
「な、なんだこれは・・・」
『これはビート・ステロイドだ』
『どうせあのお節介な須浜から話は聞いたでしょう。お前はこれを飲んでもいいし、飲まなくてもいい。』
「悪魔の薬・・・ ビート・ステロイド・・・ これを飲んで死んだ者や発狂した者は数知れないと言う・・・」
『ビート・ステロイドは飲み手を選ぶ禁断の薬。外れれば死ぬ。しかし当たればその実力を何倍にも、何十倍にもしてくれる・・・ 今の君にはノーリスク・ハイリターンだ。まさに神の救いの手だとは思わないかね?』
「勝手にこんなところに連れて来やがって!誰がこんな薬飲むかよ!ふざけんな!」
『おやおや・・・ まだ強がる元気が残っていたとはね。餓死直前になってから飲んでも間に合わないので体力が残っているうちに飲むことをオススメしますよ。それでは』
「待て!逃げるんじゃねえ!この野郎!!」
(あの野郎、こうやってビーマーを誘拐してきて、ビート・ステロイドを投薬してるんだ。ここなら誰かが死んだって誰も気にしやしない。当たったらそのまま手下にするって寸法だろう。なんて連中だ・・・)
ビート・ステロイドを使うのは恐ろしかったし、何より神輝の言いなりになるのは癪だった。
だがこの2週間まともに食事と言える食事は何も食べていない。食べたのは毎日の配給であるわずかな粉と粗末な食事。
鷹の男のプレイを見て何かに目覚めた気はするがついに体が言うことを聞かなくなっている。
自然と両目から涙が溢れて止まらなくなっていた。
(なんで・・・ どうして・・・ 俺がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ・・・! スコア改竄なんかせず・・・ 黙って音専で暮らしていれば良かった・・・!)
後悔先に立たず。
俺は神輝の言葉を思い出していた。
『ビート・ステロイドは飲み手を選ぶ禁断の薬。外れれば死ぬ。しかし当たればその実力を何倍にも、何十倍にもしてくれる・・・』
このまま野垂れ死ぬくらいなら、ビート・ステロイドを飲んで一か八かに賭けた方がマシだ・・・。俺はそう決心した。
部屋の隅っこに転がった小瓶。持っていた水でありったけを飲み込んだ。
(もうどうにでもなれ・・・ 俺はじきに・・・ 死ぬ・・・)
飲んだ直後は何の変化も無かった。
(何かあるならさっさと起きてくれ・・・)
すると脳みその中が異常な興奮状態となり、誰かがノコギリで脳みそを半分に割るような、そんな激しい痛みが俺を襲った。
(ギギギギ・・・ これがビート・ステロイドなのかよッ・・・)
スパークした電気回路のように俺の意識はこと切れた。こんなに痛いなら、もう二度と目が覚めなくていい。心の底からそう思った。
一体どれだけの時間が経っただろうか。俺の意識が帰ってきた。
頭はまだ痛かった。
(ど、どういうことなんだこれは・・・)
次に気付いたこと。それは俺の視界が二つ存在しているということだ。
右目で見ている世界と左目で見ている世界。それぞれ異なる二つの視界が俺には存在するようになっていた。
転ばないように壁伝いに歩き、なんとか筐体のある部屋までやってきた。何せ今の俺には視界が2つあるのだ。
何か変化はないかと筐体を見つめた。すると大きな変化に気がついた。
『貰ったぞ・・・暗黒殿』
to beat continued...