2nd Stage "暗黒殿"
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俺は・・・俺は空を飛んでいた・・・ 永遠の深い眠り 水の中で生まれ 空を飛び 純なる時代を訪れ 『おい、起きろ!』 俺を起こすのは誰だ
『おい、起きろ』
おい、ちょっと待てよ 俺は昨日、学校のスコアを改竄して確か寮で寝ていたはず・・・ ここはどこだ!?
(頭が・・・ 頭が割れるように痛む!)
『倉伊勢さんが言うから念のために誘拐したものの、これはやはり間違いだな』
「お前は誰だ!ここはどこなんだ!帰してくれ!」
(帰る・・・ 帰るってどこに?)
ここはどこで、何故連れて来られたのだ?
そして俺はどこに帰ればいいんだ?
どこか遠くで大勢の人が騒いでいるような音がする。
驚いてまわりを見回すと、ここはコンクリートが打ちっぱなしの部屋だった
かなり薄暗いので良く分からなかったが、部屋は灰色で窓も何も無く、
かつてドアだったと思われる場所がそのままぽっかり空いているだけだった。
(お、俺は一体どこに来たんだ!?)
『ようこそ、暗黒殿へ。』
「お、お、おい!誰だ!?」
慌てて周囲を見渡すが・・・誰も居る気配はない。
『私のビーラを使って直接君の脳内に話しかけています、騒いでもどこにも私は居ませんよ。』
「お、お前が俺を誘拐した犯人だな!?」
『そう、その通り。私の名前は神輝です。』
「早く俺を解放しろ!なんなんだここは!」
『女王ミネルヴァに比類する3979を叩き出した覚醒者が現れたと聞き、わざわざ君にアプローチしましたがその実力はAAAにも及ばない雑魚でした。』
『この暗黒殿に国家権力は及ばない。邪魔な人間を消すにはもってこいの場所です』
『ビートマニアのプレイ結果に応じて暗黒殿で使用できるお金、デラーを貰うことが出来ます。君の実力では1か月もすれば餓死してしまうでしょうがね・・・。ちなみに100万デラー溜まったら暗黒殿から出られますよ。健闘を祈ります、死ぬ前に上達してください。では。』
「あ、あ!?おい、ふざけんな!俺をここから出せって言ってんだよ!!!」
何も返事は無かった。
俺はしばらく放心していたがどれほどの時間が経っただろうか、頭のもやもやが突然晴れ、大きなショックが俺を襲った。
(お、落ち着いてここから出る方法を考えよう、そうしよう)
(このがらんとした建物・・・遠くから音が反響してここまで響いているということはかなりの広さのはず)
100万デラーを溜める・・・ その前に餓死する・・・ なんのことだ・・・?
とりあえず音のする方へ行ってみよう。俺は部屋を出た。
元々はホテルか何かだったのだろうか?部屋を出ると廊下になっていて、
自分が入っていたのと同じ形のコンクリート打ちっ放しの部屋がいくつも並んでいた。
部屋にはどれもドアは無かった。暗がりの中に人が居るようだったので入って少し覗いてみたが、男は部屋の隅っこで意味不明な独り言をぶつぶつ呟きながら空虚を見つめていた。
明らかに精神に変調をきたしていると思った。俺は存在に気づかれないようそっと部屋を出て早足で逃げた。
それからは部屋を覗くのはやめた。しばらく歩くと騒がしい音のする方へ出た。
(大きなホール・・・?)
広いホール状の場所の一箇所に多くの人が群がっていて、大声で野次を飛ばしているような、
いや歓声を上げているような、異様な熱気を感じた。
(こいつらは何に群がっている?)
人ごみへ駆け足で向かうと、その目線の先にあったのは金網、
いや、金網に入ったビートマニア筐体とプレイヤーだった。
(さっき神輝が言っていた言葉、『ビートマニアのプレイに応じてデラーが貰える』
何のことだか意味がわからなかったがそういうことか・・・!)
どんな奴がプレイしているのか、気になって金網の近くへ駆け寄った。
いきなり目に入ったのはMENDES(A)のAAA!!!
(なんだと!?)
それを見ているオーディエンスたちも思い思いに歓声や奇声を上げていた。
(リザルト画面で聞こえるサウンドエフェクトなんかとは全然違う、これが本当の「リザルト」なのか・・・!)
プレーが終わり、先ほどMENDESでAAAを出した、少しガタイの良い男が金網から出てきた。
どうやら少し離れた場所にあるATMのような機械でデラーを受け取っているようだった。
(今のプレーでいくら貰ったんだ・・・?)
ATM状の機械の上にある電光掲示板にはデカデカと獲得デラーの額が表示されていた。
その額は・・・
(こ、このプレーで300デラー・・・!?)
俺は神輝と名乗る男の言葉を思い出していた。
(100万デラーを溜めれば暗黒殿から出られる・・・)
(しかし俺の実力で100万デラーを溜めるにはあと何年かかる!?)
呆然と立ち尽くしていると一人の男が俺に声を掛けて来た。
「君が新入り?君、死ぬよ」
―――to beat continued...