表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

振り返ってはいけない

作者: 葉沢敬一

 怪談で「決して振り返ってはいけない」と言われることがある。見たら戻れなくなるという。この話は嘘ではない。

 振り返るということは過去に拘ることである。そして、過去に拘り続けて人生台無しにしている人間は沢山、いや99%はそうではないかな。過去と未来に拘るなという仏教が定期的に「再発見」されるのもこんなところに原因がある。

 人間、過去を見つめ続けてしまう傾向がある。

「あんなことをしなければよかった」「ああすれば良かった」

 後悔に塗りたくられた人生は、今を不幸にし続ける。

 そんなことを怪談として語っている。

 そして、その時には必ず言われる。

「全力で走れ」

 今を精一杯生きろという教訓である。真実は事実として受け止められ怪談は語り継がれる。

 3.11の時、津波が押し寄せた映像で時々放映される。

 私は軽自動車にようやく捕まえた愛猫を押し込みどんどん押し寄せてくる津波から逃げていた。町の防災無線が高台に避難するように叫んでいる。田舎に赴任していた私は逃げ込めそうなビルがない中、必死に高所に向かって走って行った。

 近くの崖の上に避難した人からこっちへ来いと怒鳴っているのが聞こえる。でも、土地に不案内な私にはどこからそこに登れるのかさっぱりわからない。

 山に向かって走っていると、所々に車が止まっている。ここなら大丈夫なのだろうか。そうは思えなかった私は、反対車線に出て突っ切る。それを何度か繰り返したところ、どうやら海の方に家族を迎えに来て正面からぶつかったと思われる車に出会った。

 道が塞がっている。車からは出ない方がいいだろうと、判断して初めて後ろを見た。

 車から1mくらいのところまで波が来ていた。

 第何波か分からないがまたくるかもしれない。私は後部座席から猫の入ったキャリーバックを取り出すと、近くの高台に登った。そこは河の土手だ。なんてこった、川に沿って走っていたのか。河は逆流で増水していたが、土手を越えるほどではなかった。

 猫はミャーミャーと鳴いていて手荒な扱いに抗議している。ごめんよ。

 土手に避難せざるをえなかった人々がいて、集まって情報交換した。みな、感情を失った顔をしていた。 

長い時間経ったようだったが家を出てから30分くらいしかたってない。猫を見つけるのに時間が掛かったせいだ。

 地元の人が居て、近所に一段高いところに小学校があるというので、様子を見て移動する。校門の先に坂と階段があってそこが避難所になっていた。自衛隊が来て拠点となった場所である。

 津波の速度は100mで10秒だから走って逃げてたら間に合わない。まさに、振り返ったら死んでた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ