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「彦根独特の言い回しが調べたいって話でしたけど、全国的に見ても、地方独特の言い回しがあるんですか?」
タモンが聞くと谷町さんが
「北海道だと『うるかす』・『ちょす』・『きかない』などがあり、順に『水につける』・『さわる、いじる』・『やんちゃ』とかの意味になります。
東北だと『しゃっこい』・『はいる』・『でかす』が『冷たい』・『映る』・『上出来』とかになります。
近場の関西でも『なおす』・『ぐねる』とかが、『元の場所に戻す、片付ける』・『ひねる、挫く』だったりしますね。皆さんが普段使う『エライ』も実は中部発の言い回しで『しんどい、体調が悪い』で使ってますけど、ほとんどの地域ではえらいって聞いたら『偉大な』の意味でとられるので注意した方が良いですね。」
ただ、今時は転勤や就職で人の動きも活発ですから、自分の使ってる言葉が方言だと気づかない場合や親から引き継いだ言葉がコミュニティ内で普通に通用してしまう事もあるので、一概に方言は伝わらないと考えるのも間違えなのかもしれないですよ。」
「なるほど、それは言われてみたらそうですね。
ちょっとしんどかったら『エラッ』って無意識に言ってますね。」
「でも、聞き慣れない言葉に?マークを浮かべる人だっていますし、それが商談や大人数を前に使うなどの重要な場面では裏目に出てしまう事もあります。
なので、自分の使う言葉が共通で理解されるかは確かめとかないといけないですね。」
「難しいですよね。自分はその言葉で無難に過ごしてきたからこそ使ってるのに使えなくなる可能性があるわけですから。」
「多文化共生社会において、日本国内でも言語の壁って実はあるのかもしれないですね。関西弁で言われたらきつく言われてるように感じたり、博多弁で話す女の子は可愛いとか下らない偏見もありますからね。」
谷町さんは最後の方が語尾が強かった。おそらく博多弁女子と何かあったのだろう。触れてはいけない気がしたので話をそらして
「今回の調査も彦根人にしかわからない言葉があるって感じですか?」
「こほん、すみません。例えば一期一会はその時その時を大事にするとかで使われる四字熟語ですけど、元を正すと彦根藩主の大老井伊直弼が自身が主催したお茶会で言った言葉だったそうです。各地域にもこのようにその土地のえらい人が言った……ああ、偉大な人が言った言葉が意味をもって普段使いされてるものがあると思うんです。まだまだ見つかってない、言わば新作の方言を私は探しているわけですよ。あれば良いし無くても別に良いくらいの感じでやってますけどね。」
谷町さんはそう言って笑った。