「あー3」
松原町は彦根市の琵琶湖側でとなりの米原市と隣接する地域である。元々は内湖と呼ばれる場所だったが埋め立てられた場所である。住宅街となっているため、夜間だと帰宅者や住民の誰かが犬本体や鳴き声を聞いている可能性はある。線路沿いに歩いていくと戦国大名で彦根の藩主だった井伊家にゆかりのある龍潭寺や井伊神社、桜の名所として知られる弁財天がある場所まで来た。
この辺まで来ると佐和山が近いため、本当に犬がいた場合は目撃情報なども得られなくなるだろうし、この時期だと桜は咲いてないので、観光客も少ないため情報はあまり得られないだろう。
タモンはそう考えて線路を渡り彦根城の近くの住宅街に来た。
道にはあまり人がいなかったので近くのスーパーに入りは人の話している人がいる近くまで行きヘッドホンを外す。
「いらっしゃいませ」
「山本さんの所に女の子が産まれたらしいよ。」
「このお肉少し高くない?」
「直政像の噂聞いた?」
「本日、キャベツが安くなっております。」
「友達が彼氏と浮気したんだよね、どう思う?」
「お菓子買って!」
タモンは色々な会話を同時に聞いて、『直政像の噂』の話をしていた声に集中する、
『聞いたよ、驚いて犬のリード放した人がいるらしいね。
飼い主の自覚とかあるのかな?』
『ホントね。それにリードを放されたくらいで逃げちゃうなんてよっぽど嫌われてたんじゃない。』
『うちも犬を飼ってるけどまったく世話しない旦那には懐いてないから、散歩行かすのもハラハラするのよね。』
『そうなんだ。でも、犬が逃げたって事でその目撃者が特定されないって珍しくない?
毎日散歩に行ったり鳴き声が聞こえたりするのがなくなったら近所の人が気づくんじゃない?』
『私も思ってた、これってもしかして話を盛ってるだけで犬なんていなかったのかもしれないよ。』
『うわ、自作自演とかどんだけ注目されたいのって感じだね。』
その後は憶測をでない聞くだけ無駄な話になったので、違う話に集中しようとしたところで肩を叩かれた。振り向くと警備員らしき男が立っていて
「失礼ですが・・なにをされているんですか?」
「すみません、日常の出来事を歌にする作詞をしていたので、人の話を聞いてました。何かご迷惑をかけましたか?」
「買い物かごも持たず、商品を見るわけでもないただ突っ立っている人がいたら不審者だと思いませんか?」
「確かにその通りですね、以後気を付けます。」
僕は念のために警備員に頭を下げてスーバーをでた。