むー2ぶ
彦根市内を流れる芹川の近くに『七曲り』と呼ばれる場所がある。
昔から仏壇職人が多く住み現在でも仏壇屋さんが並んでいる。
そんな仏壇屋さんの一つにいろはとタモンは来ていた。
「この写真の仏壇について何かご存じですか?」
いろはの問いに高齢の店主が
「かなり古い仏壇ですね。ただ誰が作ったとかはちょっとわからないですね。」
「これは量産品とかじゃないんですか?」
「ああ、そうですね。これは彦根仏壇です。職人が一個一個作った物でしょう。」
「こちらの壊された方はどうですか?」
写真を見た店主が
「ああ、これは工場で作られた量販品でしょうね。別に量販品の質が悪いとかそんな事もないですけど、職人の作った物ではないでしょうね。」
「やっぱり見たらわかる物ですか?」
いろはが聞くと店主は
「まあ、もう40年以上この仕事をしてますからわかりますが素人が見てもわからないでしょうね。」
「じゃあ、犯人はその見分けができる人ってことですか?」
「う~ん絶対そうとも言い切れませんが、少なからず知識がある人ではあると思います。」
「彦根仏壇ってそもそもがどんな物なんですか?あまり仏壇を見比べる事もないので違いがわからないのですが?」
いろはが言うと店主は笑いながら
「最近の若い人はあまり仏壇に手を合わせるなんてこともしなくなりましたからね。
彦根仏壇の特徴は高級な素材を惜しげなく使った約121cm以上の大型の仏壇が多くて高級仏壇の代名詞にもなってす。漆器の表面に漆で絵や文様、文字を描き漆が乾ききらないうちに金や銀などの金属粉を蒔く事で器面に定着させる技法を用いた蒔絵や金箔を取り入れた豪華絢爛さが売りですね。
また、工部七職と呼ばれる、木地師・宮殿師・彫刻師・箔押師・蒔絵師・塗師・錺金具師という専門の職人が作ります。細かい手作業の連携によって作られているので一つ作るのもおよそ2か月、長いものだと2年間なんて物もあります。
最近では小型の物も作られるようになりましたが、やはり彦根仏壇と言えば大型の物ですよ。
仏間に飾るとかじゃなくて一つの芸術品ですね。」
「工場で作られているような量産品は芸術とは呼べませんか?」
「私個人としてはそうですね。長年関わってきてるからこそのプライドみたいなものがありますよ。」
店主はそう言って笑った。自分の仕事に対する誇りのようなものを持っているのだろう。
知っている人は知っている、そんな彦根仏壇のみが破壊されずに残っていたという事はあの事件現場に出入りできた人間の中に詳しい人間がいれば一気に容疑者が絞られるようにいろはは思った。
 




