やー8
「そうだ、タモンさん!この間の佐々木さんからのご依頼なんですけど……」
いろはが小窪と一緒に歩いていたタモンに話しかける。
「バカか。他の人の依頼中に違う人の依頼の話とかするなよ。」
タモンが強めに言う。もちろんこれは二人の作戦である。
小窪に佐々木という人の話をするとどういう反応があるのかを試すためのものである。
「いえいえ、私のわがままにお二人を巻き込んでますから。
お二人に問題がなければどうぞ。」
小窪は微笑んで言った。特にがっつく感じでもない。
「すみません、じゃあお言葉に甘えて。
野瀬町の佐々木さんからのご依頼なんですけど、社長が面白がって『受けちゃいなよ』とか言ってました。」
「あの人の判断基準の見直しを副社長とかに進言するころあいなんじゃないか?面白いからって理由で派遣される俺らの気になれよ。」
「そうですよね。まずは人を増やしてから言えって感じですよ。
それはそうと、佐々木さんの家の古い井戸から声のようなものが聞こえるって話ですけど正直にどう思います?」
「なんだ?『うらめしや~』とか『お皿が一枚~』とか聞こえるのか?」
「少なくとも番町皿屋敷風の怪談ではないと思います。
そもそも枯れ果てた井戸なのに先祖代々の遺言で埋め立ててもいけないし近寄ってもいけない何て言われるくらいだからかなりいわく付きなんじゃないですか?」
「野瀬町っていうのはどの辺なんですか?」
小窪が聞き、タモンが
「西今町から犬上川の方に向かったあたりです。
この近くですよ。」
「古い井戸ですか。それは是非見てみたいですね。
今回の調査にはおよそ関係ないと思いますが、古く歴史のある物を見るのは学者として大好きですからね。」
「いろは、佐々木さんに連絡して今から伺って良いか確認してくれ。」
「了解です。」
いろはが離れた所で電話をかけ始めた。小窪が
「先祖代々の遺言でという話でしたが古いおうちなんですか?」
「家系としては古いみたいですね。なんか有名な一族の派流らしいですけど、一族から有名な人が出てはいないらしいです。」
「ほう、有名とはどのような?」
「何時からとかはわからないですけど近江を治めてた国司とか守護とかの一族らしいですよ。詳しくはいろはが知ってます。
おうち自体は最近建て直したのできれいな大きな家らしいです。」
小窪の目がキラキラしている事にタモンは気がついた。
その理由が自分の調べている事に関係があるからなのかそれとも単純に学者としての好奇心なのかはわからなかったがとりあえずの効果はありそうだなとタモンは思った。




