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04 二人との出会い

 マリーは失望した。玉座に座るだけで何もやってない無能さに失望した。


 これではただの象徴だと、せっかく始まった自分の物語を王宮のお飾りで終わらせたくなかった。


 なので、抜け出した。広間を抜け出し、慣れない靴でドレスをつまんで王宮のどこかの廊下を足早に歩いていた。


「あーもういやになっちゃう。カルヴェイユはどこ? あのカエル、今度あったらぶん投げてやる」


 自分をこの状況に追いやった諸悪の根源を探していた。


 正直、あの広間にいるのが耐えられなかった。メイドはお姫様扱いだし、大人は難しい話しかしない。マリーにとって、あの場は窮屈と感じるほどだった。


 しかし、この王城、迷路のように入り組んでいてカエルを探そうにも、まず自分の位置を確かめる必要がありそうだ。


 廊下の右側の窓からは中庭がみえ、観賞植物やら池やらが見える。対岸をみると、相対する建物がみえどうやら自分が三階あたりにいることがわかった。


 そして、中庭が右に見えるようにぐるっと一周したところで、


「一、二、三、四?」


 対岸の建物の窓が四階分あることに気づいた。


 階段を上がった記憶はない。王城は迷路的な構造をしていた。侵入を防ぐためとかあるのかもしれないが、マリーにとっては邪魔でしかない。


 それでもなお、知らない屋敷を意味もなく歩き回るのは、存外楽しいものでもある。


 壁にかけられた絵画を見て回ったり、池の鯉がはねるのをみたり、知らない部屋を片っ端から開けてみたり、マリーは冒険をしていた。


 マリーの足はだんだん早くなり、ふと、次の角を曲がろうとしたとき、大量の書類をもった青年とぶつかった。


 そして大量の書類が散乱したのだった。


「あ、ごめんなさい」

「いえ、こちらこそ。前が見えなかったもので……いえ、申し訳ありません。あとは自分でやりますので」


 青年はマリーの格好をみるやいなや言い直した。マリーより頭一つ高いくらいの背丈で、長めの黒髪に平凡な容姿だが、どこか清潔感を覚えさせる。


「そんなこと言わないで、私にも責任があるわ。拾うくらい手伝うわ」


 青年の拒否を言わせる前に拾い始めた。『第五次元空間の完全性の喪失』なんてよくわからない書物だらけだった。


「すみません。ここはもう王城だったのですね」

「?」

「昨日のことになります。学院と王城の廊下が、メビウスの輪といいましょうか、表と裏が区別できない形で繋がったのです。この廊下も昨日までありませんでした」

「なるほど」


 突拍子もないことだが信じざる得ない。何せマリーは花畑を海に変えたことがある。なぜ王城が迷路になってるのか理解できた。


 拾い終わったあと、青年も道に迷っていたし、マリーは暇だったから、廊下にあった椅子に腰を下ろした。


「自分は学院の研究者をしています。今日は教授に頼まれて資料の移動をしていたのですが、こうやって迷いこんだわけです」


(学院というと、カルヴェイユが言ってたような)


「伯母が結構有名な方でして、妹と一緒に学院にはいれたんですが、どうやら自分には伯母のような才能はなかったようです」


「あら? どうして『なかった』なんて断言できるの? 私はすべての人間にすべての可能性があるべきだと思うわ。あなたも例外じゃない」


 マリーは何の取り柄もない自分自身にいった感じがして後ろめたさを感じた。



「カルネラ。どうかしましたか?」


 凛とした清々しい女性の声が聞こえた。声の主はメイド服に着替えたばかりのようで、執事用の手袋をはめようとしている。


 一七歳くらいであろうか、健康的で引き締まった体つき、かといって胸の主張は控えめで、明るい茶色の髪は後ろ手に一つにまとめられていた。


 でも彼女はマリーに気づいたらしく、即座に作業を中断してマリーの前に跪いた。


「これは陛下。カルネラが無礼を働いたようで、大変申し訳ございません」


 青年の名前はカルネラというらしい。そしてようやくカルネラもマリーの正体に気づきメイドに並ぶように跪いた。


「こ、こ、これはマリー女王陛下でございましたか……」


 カルネラはマリーに書物を拾わせたことで青ざめるのだった。


 マリーは心底困っていた。お姫様扱いが嫌だったので抜け出してきたのだし、ここでもお姫様扱いだと意味がない。


 これが記憶を喪ってることに対する報いだと実感し、諦めながら天を仰いだ。


 その様子は顔を伏している二人からしたら見下しているように見えただろう。


「いかなる処罰も受け入れます」


 このメイドなかなかに肝が座っているらしい。


 しかしマリーは閃いた。初対面の二人なら王宮と学院を案内させるのに向いてるのでは、と。


「二人とも顔をあげなさい。とりあえず、陛下って呼ぶの禁止にします」


「しかし……」


「拒否は認めません。あと、私のことはマリー様とお呼びなさい。これは女王命令です」


 マリーがはじめて女王として振る舞った瞬間だった。



 マリーは二人の従者を従えて新たなる冒険に繰り出していた。


(へへへ、言ってやったわ。これで探索も楽になるでしょう。お姫様じゃなく対等な扱いでね)


 内心、ニヤニヤしてるのだった。


「ところであなた達、名前は?」


 青年のほうから自己紹介がはじまる。


「カルネラ・アルスバーンと申します」


 メイド服の女性は、


「ルイス・アステリカです」


「カルネラに、ルイスね。私はマリー……」


 マリーはここで詰まる。自分のフルネームを知らなかった。


 考えてみるとマリーとしか呼ばれていない。そもそもマリーであっているのかも怪しいと感じたのだった。


「ただのマリー様よ。今回はね」


 誤魔化した。

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