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30 友達と呼べるもの

 女王マリーが存在しながら、エスカリエが滅亡した世界。それは、過去から分岐した未来の可能性の一部にすぎないが、今後エスカリエに危機が訪れることを予感させた。


 考えてみれば、王政はヴィルヘルムに、戦争はオルヴェイトに任せっきりで女王として何もしてこなかった。この荒廃したエスカリエの世界がエスカリエの未来の姿だと、まざまざと見せつけられているように感じた。


 とりあえず、元の世界に帰る方法を考えているがいいアイデアは思いつかない。


 それよりも、マリーの前に頭を垂れ跪いている五人の少女がマリーの気を散らしていた。


「申し訳ありません、マリー女王陛下! 御身であらせられることを知らずに、我らは不躾な態度をとってまいりました! ここに深くお詫び申し上げます!」


 嫌というほど見た光景にため息をついた。


 そもそも、マリー・ルーン・エスカリエがどんな人物であったのか覚えていないし、自分が本当のマリーだという保証もない。自分がマリー・ルーン・エスカリエだと崇められるのに、若干の後ろめたさを感じた。


 メアリーとして狐面をつけてきたが、仮面を外せば、今度は偽りのマリーという仮面をつけることになる。


 まるで、玉ねぎの芯をさらけだそうとして、皮をむけば、玉ねぎがなくなっていくような感覚に、ある意味のジレンマを感じつつ、一体いつ、どこの選択肢が今の状況を創り出したのかと過去を振り返ってみても、後悔の念を感じざるを得ない始末に、マリーはもう一度ため息をついた。


(ただ、女王マリーならどう行動するのかを考えていたのだけど?)


 偽りのマリーを演じているつもりだったが、いつしか本当のマリーの行動になりつつあると、そこはかとなく感じた。


「いいわ。ローズ・ヴァレンシュタインとその配下たちよ。あなた達の一切を許しましょう。今後もなお、女王マリーとしてではなく、メアリーとして……」


 マリーはここで言葉を止め、五人を視界に捉えた。


 マリーがいま口走ろうとしていたのは、まさに偽りのマリーの言葉だと気がついた。許し許され、崇め崇められの関係は、もはや必要ない。


 マリーは腰をおとしてローズたちと目線に合わせると、


「ローズ・ヴァレンシュタイン、ケイト・アンダーウィル、アリア・トルストイ、スローシャ・ベルンシュタイン、ルイーゼ・ラトリック。むしろ、私が謝るべきだわ。正体を隠し、メアリーという仮面に甘えたのは、私が弱かったからだもの。だから、私からお願いするわ。私と、友達になってくれるかしら?」


 ローズたちは顔をあげ、ローズはマリーから差し伸べられた手を取った。


「もちろんだとも、マリー殿」


 メアリーでもなく、女王でもなく、ただのマリーとして、マリーはローズたちともう一度、友達になった。

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