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27 ローズ近衛分隊2

 人が居た様な形跡はなく、草木を切り落として前に進んだ。先頭にマーガレット、次にマリー、後続にローズたちが続いた。


 一五メートル規模の木々は、直射日光からマリーたちを守る反面、鬱蒼とした密林に新たな生態系を形成している。


 甲冑の頭装備と同じくらいの大きさの蝶が、放射状に張り巡らされた粘着性のある糸に捕まっていた。五十センチメートルはある胴体に、その倍の長さの足を八つ持った節足動物がいる。


「ぎゃあああああ! マーガレット! 早く倒して!」

「さすがに私も蜘蛛は……」


 マリーはマーガレットにしがみついた。並列して並んだ複数の目が少女たちの姿を捉えている。


「私にお任せください」


 後続にいたアリア・トルストイは黒の柄に先端に金属の剣先がついている槍――スピアを両手で構えて蜘蛛に突進した。


 外骨格は貫かれ、紫色の体液が溢れ出すが、八本の足はいまもなお、うごめいている。


 ルイーゼ・ラトリックは全金属製で重量のある戦棍――メイスを振り上げて蜘蛛の頭部を粉砕した。蜘蛛はピクピクと痙攣したあと静かになった。


「助かったわ。ありがとう」


 女子という言葉が、マリーの頭の中でゲシュタルト崩壊しかけた。


 しばらく進むと五メートルはある蛇がとぐろをまいてマリーたちの行く手をはばんだ。


「マーガレット!」

「すみません。蛇も駄目です」

「この役立たず!」


 ケイト・アンダーウィルは、自身の背丈を少し超える長さで先端に三日月状の刃をもった戦斧――ハルバードを振るって蛇を両断した。


 相当の距離を歩いてきて、少女たちの小腹が空きはじめていた。マリーは両断された蛇の傍らに座ると、綺麗に斬られた断面をみながら、


「ふぅー、冒険も楽じゃないわね。……蛇の肉って食べられるのかしら?」

「「……!」」


 特に何もやっていないマリーの冗談の一言は、その場を凍りつかせた。この流れでは、蛇を食べる空気になってしまう。誰かこの役立たずを黙らせてくれ。


「コホン、マリー様、流石に蛇は……」

「じょ、冗談よ。言ってみただけじゃない?」


 少し進むと開けた場所にでて木々の上に赤い木の実が成ってるのを見つけた。


「流石に届かないわね」


 スローシャ・ベルンシュタインは背中に背負った(えびら)から数本の矢を取り出すと長弓――ロングボウの弦をギリギリと引いた。


 放たれた矢は枝に当たり、果実が落ちてきた。果実は甘く熟れていて、マリーたちは、久々の甘味に一息つくのだった。


 スローシャは短剣を取り出すと、果実を綺麗に切っていった。


「接近戦では、短剣に切り替えますの」


「へー、みんな違う武器を使っているのね」

「剣に興味がお在りか! メアリー殿!」

「ええ、まあ」


 唐突なローズの食いつきに、マリーは果実を落としかけた。


「我が剣を見たまえ。一見すると普通の剣に見えるだろうが、ただの剣ではないのだ」


「へー、どんな?」


「なんとこの剣、マリー女王陛下の剣なのだ! 名を聖剣、ダモクレスという!」


 マリーは果実を吹き出した。


「それは私の父、オルヴェイト・アステリカが昔持っていた武器です。いつの間にか、ヴァレンシュタイン家のものとなり、ローズが握っていることになります。父は《想いの力》が使えませんでしたから、かわりにその剣を授かったようです」


「マーガレットのお父さんっていうと、あの切っ先のない特大剣を背負った?」


「あれは処刑剣です。父が軍隊長に選ばれたときに、敵国の兵士を処刑するときに使うようになったそうです」


「ふふーん、すごいだろ。見たところ、ただの剣に見えるがその実、普通の剣ではないのだ」


「ダモクレス? 初めて聞きましたわ」

「いや、ローズが勝手につけた」

「名前なんてなかったはずです」

「訂正を強く求む」


「やかましい貴公ら!」


 ローズが剣を振り上げるとマーガレットはひょいとローズの剣を取り上げた。


「見てください、マリー様。剣の部分には何もありませんが、持ち手のところに黄金の装飾があります」


「黄金の装飾? ウロボロスの指輪と何か関係があるの?」

「ご明察。これは父から聞いた話ですが。曰く、人間には本来、《想いの力》を使える力はなく、神である女王陛下の体の一部に触れている間、《想いの力》を使えるという話です。女王陛下は、自らの髪を弟子の指に結んだところ、黄金に輝く尻尾を噛んだ蛇の指輪になったという話を聞きました。そして、この剣にも同じ力が備わってます」


「つまり、ウロボロスの指輪と同じ効果が得られるってことなのね」

「はい。もっとも《想いの力》の適正がないと、これはただの剣になるようですが」


 真剣な話をマリーとマーガレットがしている傍ら、ローズは体をもじもじさせていた。


「マ、マーガレット殿。剣をその、剣を返してほしいの……」


 ローズのあまりに幼気な素振りに、マリーとマーガレットの背筋が凍った。


「いけません。ローズの退治化が進行していますわ」

「え、なに?」

「ローズは一定時間、剣を持たないと性格が幼くなってしまうんだ」

「ええ! めんどくさいわね! もう」


 剣を返されたローズを、甲冑の少女四人がなだめるのだった。


「ローズ。ほら剣でちゅよ」

「わーい。わーい」



 その後、少し進んだ所で、強烈な獣臭がマリーたちの鼻を刺してきた。


「ひどいにおい」


 この殺伐とした密林でこれほどの臭いを放てるということは、さしずめ、この密林を牛耳るものの縄張りの主張。そしてマリーたちはその縄張りに足を踏み入れたことになる。


 アリアが地面に耳を当てて確認した。


「来ます……! こっちに向かってきている。かなり大きい!」

この役立たず!

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