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21 メリア・アルストル

 超越者といえど《想いの力》の詠唱後は抗えない睡魔に襲われる。リンド・リムウェルは意識はあるものの、目が虚ろ虚ろしていた。


 屋外に出されたテーブルを拭いて、しばらく休憩という話になった。ローズたちは、ローズ対四人で戦いを始め、研究者たちは濡れた資料を乾かしていた。


 マリーがテーブルに着くと、ちょうどローズからマーガレットを稽古に貸してほしいと頼まれたのでマーガレットに許可をだした。


 マリー、カルネラの対面にボーア、リンドが座った。


 マリーの膝の上で、黒猫ミーヤが丸くなって眠っている。


「メリア・アルストル。エスカリエ北部を支配するアルストル家当主。未だ公に顔を出したことがなく、超越者以上の力があるという噂がある反面、存在すら怪しいと噂もある。噂だけの人物と聞いていましたが、アルストロメリアが真名だったとは初めて聞きました」


「当主様は、嫌がっていたけどね。『オレはアルストロメリアだ。人間が言いにくいからとオレの名前をメリア・アルストルと呼び始めた』って」


 エドモント・ウィップが四人分のコーヒーを持ってきた。マリーは匂いを嗅いだ。コーヒーの香ばしい香りだ。


「……まさか、さっきの雨を使ってないわよね?」

「ワッハッハッハ。陛下は勘がいい。陛下の分は、ちゃんとした水でございますぞ」


 カルネラのコーヒーに視線を移す、少なくともカルネラは毒味役になってるのだろう。


 マリーはコーヒーを啜ると、


(にっがー! こんなの飲めないわよ!)


 と、それとなくカップをカルネラのほうに寄せた。


「私の、妹だと聞いていたけれど?」


 アルストロメリアの話はカルヴェイユから聞いていた。同じアマリリスから生まれた存在というだけ、マリーに姉妹がいたという記憶はない。


「陛下に血縁がいましたとは、ワシも初耳でございます」

「正確には、血の繋がりはないと思うよ。当主様には子孫はいないからね」


 リンドはコーヒーを啜った。コーヒーに含まれるカフェインには覚醒作用がある。リンドの眠気も少しは和らぐだろう。


「子孫がいない、といいますと?」


「うーん、なんていうか、当主様は簡単にいうと人間ではないんだ。言葉どおりの意味だよ。人間離れしてるわけじゃなく、もともと人間ではないという意味。当主様は老いもせず、死にもしないんだ。不老不死というやつさ。もう二百年以上生きているようだ。だから子孫を残す必要がない。アルストル家には当主様の血が混じったものはいないんだ。いわゆる当主様は神というやつさ」


 マリー、カルネラ、ボーアは言葉に詰まる。リンドの言ってる言葉の意味を理解するのに時間をとった。


 エスカリエ北部を支配するアルストル家には、アルストロメリアの血が混じったものはいない。


 実名のあとにアルストルとつけることでアルストル家の一員となる。


 アルストロメリア本人をみたものは少なく、アルストルの名をもつ長老からも、その先代の長老からも、同じ容姿で伝えられてきた。

 腰まで伸びた紫がかった黒髪で、身長は低く、幼女のような姿だが、口調はある意味大人びている。


「……しかし、まあ、ワタクシ共に話してよろしかったのですか? メリア・アルストル様は秘密主義のご様子。陛下はともかく、ワタクシとカルネラは聞かなかったことにしておきましょう」


「当主様が秘密主義なのは誤解してるよ。どちらかというと、おしゃべりだ」


 アルストロメリアが秘密主義と言われる原因は《想いの力》の代償、抗えない睡魔により一日の三分の二を睡眠で浪費しているからだとは知るよしもなかった。


 マーガレットとローズたちの剣の交える音が聞こえてきた。

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